インクルーシブ教育への疑問

Last Updated on 2025年6月5日 by 成田滋

統合(インテグレーション)と「完全な包括(インクルーシブ)」には違いがあります。インテグレーションでは、障害のある子どもは、同世代の障害のない仲間たちと隣同士で学習します。合衆国では、1975年に制定された全障害児教育法(PL94-142)の下で特別な支援教育を受ける権利を認められる子どもは、1週間のうち3分の2以上を通常学級で学習することができます。子どもたちは、終日通常学級にいなければならないというわけではなく、作業療法、理学療法、言語療法などの支援を受けるために「取り出し」(pull-out)の対象になることもあります。1990年に全障害児教育法は個別障害者教育法(Individuals with Disabilities Education Act : IDEA)へと名称が変更されます。

 他方、完全な包括の下では、個別障害者教育法の対象となる子どもたちは、文字通り1日中、通常学級に在籍することになります。必要な応対は「入り込み」(pull-in) を通じて行われます。つまり、専門家が教室にやってきてそこで支援を行うのです。完全な包括ではありませんが、障害のあるほとんどの子どもたちにとって妥当な取り組みであると考えられている節があります。中には自閉症、知能障害、難聴の子ども、複合障害児などの子どもたちの中には、こうした環境では適切な教育を提供できないかもしれません。

連邦政府の教育省のエンブレム

 通常学級に在籍することは、人権の尊重であるという考えが根強くあります。高等学校まで学校は障害のあるすべての子どもたちに完全な包括を提供できるように再構築するべきであると考えるのです。連邦政府の教育省によれば、個別障害者教育法の実施に関する最新の調査では、該当する子どもの約半数がほとんどの時間を通常学級で過ごしているといわれます。ただし、障害種別に見ると、その割合は非常にばらつきがあり、言語障害の子どもの90%以上が包括的な教室に在籍しています。しかしその一方で、通常学級に通う自閉症の子どもたちは、わずか29%に留まっています。つまり、教育的対応は、子どもがどこに在籍するべきかではなく、それぞれの子どもに固有な必要性によってなされるべきであるという考え方があるからです。

 インクルーシブ教育に反対する人々もいます。特別支援学校・学級を「分離教育」と捉え、障害のない子どもと同じ教室で受けさせることが正しいとする立場への反対です。障害ない子と障がいのある子を同じ教室で教えることが正しいと考える人々を批判するのです。何でもかんでも両方を一緒に教育する、という考えには反対するのです。「多様な個性の子どもが同じ場で学び、子どもは主体的に授業に参加するのが正しい」という考えを「ポリティカル・コレクトネス的」 (politically correct)として批判するのです。次稿では、「ポリティカル・コレクトネス」という話題を取り上げます。

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