Last Updated on 2025年6月3日 by 成田滋
近年日本でもよく耳にする「インクルーシブ教育」(Inclusive Education)とは一体なんでしょうか? インクルーシブ(inclusive) とは日本語で「包括的な」や「包み込む」と訳され、日本ではインクルーシブ教育は、「障がいの有無に関わらずすべての生徒が受け入れられる教育環境」という意味で用いられています。以前は「統合教育」「メインスツリーミング」という用語が使われていました。分離教育の対となる用語です。障がいのある生徒が、障がいのない生徒と同じ教室で学ぶことで得られる利点はたくさんあります。例えば次のようなものです。
- コミュニケーション、表現、言語、識字能力の向上
- 学業成績の向上
- 社会認知力や倫理観の向上
- 多様な友人関係の構築
- 他者との違いへの理解や受容
さらに、インクルーシブ教育は障がいのない生徒にも同様のメリットがあることが明らかになっています。また、私たちが理解しておかなければならないことは、インクルーシブ教育は単なる教育方法のことではなく、ある信条に支えられた「思想」とか「文化」のことを指しているのです。
実は、インクルーシブ教育には各国共通の定義というものが存在しません。アメリカでは「最も制約の少ない環境 (Least Restrictive Environment、以下LRE)」と表現されます。他方1980年代以降インクルーシブ教育が発展したイタリアでは「すべての生徒が歓迎される環境」と定義されています。どのような定義にも、「生徒たちは彼らの障がいや特性に関わらず、学年に応じた教育が受けられるべき」であり、「教育関係者のバイアスによってそれらが阻まれるべきではない」という信条が込められています。
アメリカの特別支援教育は、この「インクルーシブ教育の文化」がベースとなっています。このベースにより、障がいのある生徒たちは可能な限り、障がいのない生徒たちと一緒に過ごすことができるように考えられています。学校はもちろん、大学でもそうです。先日のアメリカの海軍大学の卒業式で車椅子の学生が、満場の拍手を受けて証書を貰っていました。また、日本においても、生徒や保護者に限らず学校教育に関わるすべての人々が上記の信条を共有していくことが、「インクルーシブ教育への転換」に必要な条件なのです。
