メリマン・ハリス(Merriman C. Harris)宣教師より洗礼を受けた二期生、特に結束が強かった7人は「新しい人」となったことを自覚し、やがて自分たちの教会を作ろうと考えていきます。寄宿舎の私室に作ったのがそれです。この小さな教会はどこまでも「民主的」で、各自はみな教会員として同じ資格をもっていました。それが真に聖書的であり使徒的であると思っていました。集会の指導役は順番に皆に廻ってきました。順番に当たった者は牧師であり教師であり、小使いでもありました。牧師は開会を宣して祈祷し、聖書を朗読します。次に自分で短い話をしてから、羊の群れを一人ひとり順に呼んで感話をさせるのです。
当番の牧師は日曜日の朝、第1に会費を集めて集会のためになにか甘い物を用意するのです。感話をさせる間に、甘い物を配り、その茶菓に元気づけられている間に感話は進行するという按配です。会員はそれぞれ自分の特質を示す感話をしました。例えば「不信心について」、「慈悲深い神の摂理」、「神にたいする畏敬と尊崇」などでした。
そうした礼拝の持ち方に加えて、学生は聖書研究の参考書を探していました。そのため主としてイギリスやアメリカの出版物を頼ることになります。例えばアメリカ伝道小冊子協会の出版物を手に入れたり、「週刊絵入りキリスト教雑誌」などでした。ボストンのユニテリアン協会(American Unitarian Association) が彼らにキリスト教関連の刊行物を送ってくれたりしました。そうした雑誌を学生達は熟読していきます。その中で最も感化を与えたのはフィラデルフィア(Philadelphia)の長老教会 (Presbyterian Church) のアルバート・バーンズ師(Rev. Albert Barnes)が著した「新約聖書注解」(Notes on the New Testament)です。
内村は、この注解書が世にも有益な魅力のあるものとして、学校を卒業するまでに新約聖書に関するこの註解を一字もあまさず読破していたと記しています。「註解の各巻にあふれる深い霊性、簡潔で明瞭な文体、その中にみなぎる清教徒の精神に感動する」のです。「この偉大な神学者によって押された神学の刻印は、自分の心から永久に消え去ることはない」とも述懐するのです。
いよいよ学生達は新しい教会を作ることになります。そのとき宣教師から、アメリカのメソジスト監督派 (Methodist Episcopal Church) は新教会堂建設のために400ドルを援助するという手紙を受け取ります。しかし、学生らは貰うことにちゅうちょし、返済の難しさを考えるのです。ですが教会堂の土地に100ドルかかるので、残りの300ドルを建築費用に充てようと考えていきます。やがて大工がきて新しい教会堂建築の見積書を提出してきます。建築の設計にわくわくするのですが、借金をすることの苦悩、やがて返済の困難さに直面していきます。