この人を見よー内村鑑三 その二十六 伝記愛好家としての内村

内村鑑三信仰著作全集の6巻には、「代表的日本人」、「コロンブスと彼の功績」、そして「ルーテル伝講演集」が収録されています。これを読みますと内村はこよなき伝記の愛好家だったように伺えます。その姿勢は終生変わらなかったようです。その基になったのは若き頃、トマス・カーライル(Thomas Carlyle)の「クロムウェル伝」(Oliver Cromwell’s Letters and Speeches)を愛読して影響を受けたからだと言われます。

Oliver Cromwell

 オリヴァ・クロムウェルは、イギリスの内戦であった清教徒革命期(Puritan Revolution)において、強い信仰心に基づいて行動した人物といわれます。内村は、クロムウェルの中に「神の義を地上に実現しようとする者」の姿を見たようです。クロムウェルは、聖書に根差した信念をもとに革命を主導し、イングランドに共和制を樹立した人物です。これは「信仰が現実を動かす」という内村の思想と重なります。信仰と行動が一体であることを理想とした内村にとって、クロムウェルの人生は「信仰をもって現実に働きかけることの模範」となったようです。

 「クロムウェル伝」を書いたカーライルことです。彼の歴史観は、「英雄崇拝思想(Hero Worship)」に基づいており、歴史を動かすのは神に選ばれた「英雄」であると説きます。内村は、自身の思想の中で「真の英雄」とは何かを模索しており、クロムウェルに「信仰によって世界を動かした英雄」の典型を見たようです。内村はこのような人物に深く心を動かされ、「信仰的行動者」としてのクロムウェル像をカーライルの筆致から強く受けとったことが伺えます。

 内村は明治・大正という急速な近代化・西洋化が進む時代に生きる中で、道徳や信仰が軽んじられる風潮に強い危機感を抱いていました。クロムウェルのように、「信仰によって国のかたちを作る」人物像は、信仰と倫理に基づいた国家や社会の理想像として、内村にとって励ましとなったのです。単なる宗教的観念ではなく、信仰を現実に生かすべきであるという内村の「無教会主義」のエートスとも一致しています。カーライルが描いたクロムウェルは、制度や権威よりも、神の導きを第一とする信仰者であるということです。これは内村鑑三の理想の宗教人像と重なります。

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