この著作は内村が英語で書いたものです。原題は「Reprezentative Men of Japan」といいます。内村の語学力を示す作品です。相当の語学がなければ著すことは出来ません。この著作はもともと「日本及び日本人」(Japan and Japanese)という作品が下敷きとなっています。その後、「余はいかにしてキリスト信徒となりしか」(How I became a Christian)も著し、ドイツ語やデンマーク語に翻訳され、ヨーロッパ大陸で多くの読者を得たといわれます。
「代表的日本人」では五人の評伝が記されています。五人とは中江藤樹、上杉鷹山、二宮尊徳、日蓮上人そして西郷隆盛です。この本の目的は,「わが国の主要人物を正しく評価し、この国民特有の多くの美点、この国民の優れた特質を外国に知らせる」とあります
。日本人の美点や特質は、盲目的な忠誠心や好戦的愛国心として海外に知られているものとは異なる特質であるというのです。このことを世界に向かって明らかにし、さらに進んでクリスチャンを含めて世界の人々は、むしろ彼ら日本人に学ばねばならないと次のように説こうとします。
最近わが国の偉人の伝記を読んでいますが、その中の幾人かは実に偉大であり、クリスチャンと呼ばれる多くの人より、はるかに偉大であり、英雄的で慈悲深く、誠実で真摯です。私はずっと以前から彼らを、異教徒とか、神に棄てられし輩とか呼ぶことを差し控えてきました。異教徒を「哀れむ」ところのクリスチャンたちは、少しく自分で自分を哀れまんがために、「異教徒」の偉人について、大いに学ばねばならぬのです。
生涯を二つのJ(イエスと日本)に捧げることを終生の目的、また喜びとした比類のない愛国者が内村です。この目的と意気込みとをもって、真の日本人がいかに偉大であったか、彼らの美点たり、特質たる勇気、愛、誠実、真摯などがどのような性質のものであり、かつどれほどすぐれていたか、なにゆえにそれらは、いわゆるキリスト教信者のそれにさえまさるのであるか、などを語り、説き、明らかにしたのがこの「代表的日本人」という著作です。
内村の日本観と日本人観は、著者が終生堅持して変わらなかった根本的な精神に基づくもので、それゆえに宣教師やその追随者らから偶像信者、異教徒、ユニテリアンなどと非難されるのです。しかし、内村は屈しません。著者のこの精神と確信は微動だもしなったのです。