「ポピュリズム」とは何か

衆議院の解散による総選挙を前に、各党の綱領や政策が発表されました。自分の党の支持を訴えるためでしょうか、他党の政策が「ポピュリズム」 (populism)だと批判したり揶揄しています。一体「ポピュリズム」とは何なのかを考えるのが本稿の趣旨です。

 「ポピュリズム」 とは単なる大衆迎合と片づけられがちですが、哲学や政治学的にはかなり奥行きのある概念といわれます。ラテン語の「人民 (populus)」が語源で、「ポピュリズム」の英語はそのまま populismと表記されます。日本語では「人民主義」とか「大衆迎合主義」と訳され、一般大衆の感情や要求に訴え、既存のエリート層や体制を批判する政治思想や運動を指します。左右極端を問わず現れ、しばしば「庶民とエリート」という対立構造で語られるのが特徴です。

ウォールストリートに掲げられた抗議の看板:99%とは大衆を意味します。

 ポピュリズムとは何かという基本定義ですが、政治学での一般的な定義は、だいたい次のようなものです。すなわち「純粋で同質的な〈人民〉」 vs. 「腐敗した〈エリート〉」という二項対立を軸にした政治を捉える思想や言説、政治スタイルです。特徴的なのは、「人民の一般意志」を強調することです。政治家、官僚、専門家、メディアといった既存のエリートへの強い不信を持ち、「自分という指導者が人民の声を直接体現する」という主張です。ポピュリズムは完全なイデオロギーではなく、右にも左にも結びつく「薄い思想(thin-centered ideology)」とされることも多いようです。

 ポピュリズムの哲学的背景や思想的系譜を辿ってみましょう。哲学的に重要なのがフランスの思想家であるジャン・ジャック・ルソー(Jean-Jacques Rousseau)です。彼は、人民は本来、共通善を見抜く「一般意志」能力を持つ存在であるとし、「徳なき名誉、知恵なき理性、幸福なき快楽」に基づいて自由を束縛し、不平等という弊害が拡大していくにつれて悪が社会に蔓延していくのだと述べます。ルソーはこうした仮説に基づいて、文明化によって人民が本源的な自由を失い、社会的不平等に陥った過程を追究し現存社会の不法を批判します。そこから人民は一つの意志を持つことによって、人民の意志を歪めるエリートを糾弾していくのです。このルソー的な民主主義理解はポピュリズムという発想に繋がると考えられます。

Jean-Jacques Rousseau

 ポピュリズムには、テクノクラシー(technocracy)という専門技術知への不信とか理性万能主義への反発という側面があります。これは「啓蒙思想 vs. 生活世界の常識」という構図や「抽象理論 vs. 体感的な正義」という対立構図で示され、「専門家よりも普通の人の感覚を信じる」という態度が正当化されるという反啓蒙・反エリート主義のことを示すようです。

 政治学でのポピュリズムの理論があります。ジョージア大学(University of Georgia) の国際関係学部准教授であるカス・ミュデ(Cas Mudde)は、「ポピュリズムとは、善良な人民と腐敗したエリートが対立し、前者の民意が実現されるべきだというイデオロギーである」と定義します。そして人民とエリートという2つのカテゴリーを均質なものとみなし、エリートは腐敗している一方、人民はすべて同じ利益と価値を持っていると捉えます。その二つの主な対立は道徳的なもので、道徳的な意味での善であるか悪であるか、という点が問われるというのです。ポピュリズムとは「人民中心主義」、「反エリート主義」、「一般意志の道徳的正当性」、「善悪の道徳化」という視点が特徴とされますが、エリートとは不正や腐敗にまみれ、人民とは道徳的に正しいという単純化が起きやすいということも指摘します。

 アルゼンチン出身の政治理論家であるエルネスト・ラクラウ(Ernesto Laclau)は、ポピュリズムを否定的に捉えません。社会には本来、未解決の要求が蓄積するのであって、それらを「人民」という言葉で束ねる政治的実践がポピュリズムであり民主主義の活性化装置になりうると主張します。これは、左派ポピュリズムといわれています。ラクラウは、ポピュリズムとは、「排除された声を政治化する技術」であると定義しています。

 ポピュリストが主張する「人民」とか「大衆」とは必ずしも現実の選挙における「多数派」と結びつくわけではありません。既存の利益団体や職能団体に属さず、政治的に正当に代表されていないと感じている農民や単純労働者などの層の不満を吸い上げ、既得権益を持つ過度に保護されているとされるエリートを非難するものです。このことから、ポピュリズムは反エスタブリッシュメント(anti-establishment)とか非主流派の政治と呼称されることもあります。

 最後にポピュリズムが生まれる条件のことです。それは既存政党への不信、代表制の機能不全、格差拡大・グローバル化の敗者意識、移民やアイデンティティにおける文化的不安、SNSによる直接関与というメディアの特性を利用して、特に「自分の声が政治に届いていない」という感覚を発散し、それが強いほどポピュリズムは支持されやすい傾向にあることを覚えておきたいです。

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