科学者の頭脳流出は起こるか

Last Updated on 2025年5月5日 by 成田滋

トランプ大統領のハーヴァード大学などへの研究費の削減や凍結、非課税資格の取り消しは、科学者の海外流失、才能流出につながるでしょうか。そうであれば、どのような国に流失する可能性が高いでしょうか。日本にもアメリカなどから科学者はやってくるでしょうか。本稿はこの課題を取り上げます。

 トランプ大統領(在任期間:2024~2028年)によるハーヴァード大学などへの研究費削減や、全体的な科学予算の削減提案は、多くの懸念を呼んでいます。このような動きが継続的に行われた場合、科学者の頭脳流失、いわゆる「ブレイン・ドレイン」(brain drain)の一因になりうると言えます。なぜ科学者の海外流出が起こりうるかには、いくつかの理由事情があります。科学者、特に若い研究者にとって研究費の安定した供給、研究の自由度、キャリア機会が非常に重要です。アメリカでこれらが脅かされると、他国でのポジションや資金支援を求めて移動する動機が生まれます。

Max Planck

 科学者が流出しやすい国のことです。彼らが流出先として選ばれやすい国には以下のような特徴があります。十分な研究資金と制度的支援がある国のドイツ、例えばマックス・プランク研究所(Max-Planck-Institute: MPI) )、カナダ国立衛生研究所(Canadian Institutes of Health Research : CIHR)、カナダ自然科学・工学研究会議(Natural Sciences and Engineering Research Council of Canada: NSERC) などは充実した研究助成を行っています。しかも、ビザ制度が比較的柔軟で移民も認める国々です。カナダ、オーストラリア、EU諸国は研究者向けビザ制度が整っています。流出先として選ばれやすい国として英語が通用しやすいことです。英語圏であれば、アメリカからの移動も心理的ハードルが低いのです。

 日本は科学者の受け皿となりうるか?という問いですが、受け入れ先の例として、理化学研究所(RIKEN)や国立研究開発法人科学技術振興機構 (JST) などの公的機関が上げられるでしょう。理化学研究所の研究組織所属職員は2,820人で、そのうち外国人研究員は474人となっています。こうした研究機関は、世界レベルの研究支援を行っていることや外国人特任研究員などの制度で研究者も受け入れています。また沖縄科学技術大学院大学(Okinawa Institute of Science and Technology Graduate University: OIST)は,教職員1101名中、72ケ国からの外国人が517名を占めています。大半の研究員は任期制です。ノーベル賞受賞者も輩出している研究力も有しています。ですが期限付きの特任研究員が多いのも気になります。

理化学研究所

 このように、日本は一定の魅力を持つのですが、以下のような受け入れはかなり難しい課題もあります。それは、研究者の待遇、つまり長期的なキャリアパスが不透明なことです。さらに、雇用制度の柔軟さや研究の自由度に課題があると感じる研究者もいます。日本の大学は、文科省の補助金を受けているため、大学として自由度が限定されています。外国人教官にとって大事な終身雇用制度のテニュア(tenure)も貧弱です。しかも組織が硬直なため、外国人研究者には居心地は決して良くはないのです。日本語の壁や子弟の教育にも不安があります。私生活や行政手続きにおいてストレスとなります。

結論
 ひと昔前までは、旧東ドイツやソビエト連邦などからの頭脳流出が多かった歴史があります。最近ではヨーロッパからアメリカへの技術者の流出が問題となっており、EU諸国では高度技術者移民を獲得する政策に力を入れています。 中国やインドも頭脳流出が激しく、アメリカやカナダ、オーストラリアに毎年多くの人が移住をしています。そして、今やその反対の現象が起ころうとしています。

 大学や研究所によって開発され、そこで得られた特許によってもたらされる経済効果は膨大なものとなります。医薬品の特許は、他の特許に比べて重要性が高いのです。頭脳流出は、人材の損失だけでなく、経済成長の鈍化や技術開発の遅れ、イノベーションの停滞など、様々な負の影響を及ぼす可能性があります。トランプ政権下の研究費削減の動きは、若手研究者の海外への移動を促す可能性があります。流出先としては、研究環境が整ったカナダやドイツなどが有力です。日本も一部の先進研究分野では受け入れ先となりえますが、言語や制度面でアメリカの研究者が諸手を挙げて日本を選ぶという状況にはありません。

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