Last Updated on 2020年3月9日 by 成田滋
サイバー先進国として、エストニアはもはやヨーロッパの「小さな国」ではないことを説明してみます。エストニアが電子政府を構成している要素の一つに、2002年から始まった国民に対して「eIDカード」を発行する国民ID制度というのがあります。制度が開始して以来、エストニア人の98%がこのeIDカードを所有しているといわれます。
eIDカードの活用例としては、EU内の行き来のときのパスポートとなります。次ぎに国民健康保険証としても使えます。医療記録を確認したり、税務の申告で使えます。もちろん投票のときも使います。銀行口座にログインする際の身分証明書ともなるのですから、銀行毎のカードは不用となります。オンライン上で行政手続ができるメリットといえば、役所で並ぶ時間や待ち時間がなく誰にも大きな時間短縮が図られています。役所は人手を別のサービスに振り向けることができます。
エストニアは他国からの侵略と混乱の歴史から、たとえ領土を失ってもデータさえあれば国は早期に復興できるという備えの考えがあります。それを実現しているのが「データ大使館」と呼ばれるものです。エストニアは2007年4月に基幹となるサーバーが攻撃され、混乱したことがあります。有力な説ではロシアが仕掛けたサイバー攻撃といわれます。そこでエストニア国民の個人情報や政府の機密情報等のデータを、信頼できる同盟国のサーバへ分散して保存しておくことにしたのです。データ大使館を置いた国は、同じくヨーロッパの小国ルクセンブルク(Luxemburg)です。
この二つの国に共通するのはIT活用に積極的であることです。ルクセンブルクはスタートアップするIT企業を多く抱え、外国企業の受け入れにも積極的です。政府機関や国民のあらゆる情報を保存するサーバーはサイバー攻撃の対象となります。そうした苦い経験により、情報の分散化をはり、それをITの先進国であるルクセンブルクに求めたとされます。データ大使館には国を継続するために必要なデータを保管するという小さな国の大きな戦略が込められています。
ところで我が国の「マイナンバーカード」はなんの役に立っていますか。個人番号を証明する書類や本人確認の際の公的な身分証明書だけです。普及率はたったの14%。あってもなくても不自由しないので普及しないのです。典型的な行き当たりばったりの施策です。