再度、チェコの反体制派ヴァーツラフ・ハヴェルの生涯を要約してこのシリーズを終わりとします。ハヴェルは裕福なレストラン経営者の息子だったと自伝で書いています。1948年にチェコスロバキアの共産主義政権によって父親の財産を没収されます。ブルジョワ階級の両親の息子であったハヴェルは、小学校などでは回りから疎んじられていたと告白しています。財をなくしたハヴェルは、容易に教育を受ける機会を奪われのですが、なんとか高校を卒業し大学で学びます。政治的な理由から、人文科学系の高等教育機関への入学は認められなかったため、プラハのチェコ工科大学(Czech Technical University)経済学部に進学しますが、2年後に中退します。1959年にプラハ(Prague)の劇団で舞台係として働き始め、すぐにイヴァン・ヴィスコチル(Ivan Vyskočil)という仲間と共に戯曲を書き始めます。
1968年までに、ハヴェルは「手すり劇場(Theatre of the Balustrade)」劇団の専属劇作家まで登ります。彼はプラハの春(Prague Spring)として知られる1968年の自由主義改革の主要メンバーとなります。同年、ソ連がチェコスロバキアを弾圧した後、彼の戯曲は上演禁止となり、パスポートも没収されます。1970年代から80年代にかけて、彼はチェコスロバキアにおける人権擁護活動のため、度々逮捕され、1979年から83年までの4年間服役します。ハヴェルは釈放後も故郷に留まり、やがて反体制派の仲間とともに「憲章77(Charter 77)」を起草します。この憲章は自由を求める声が結晶となった非常に重要な市民運動のことです。
ハヴェルは以上のように劇作家という顔も持っています。1963年に最初の単独で戯曲『庭の宴(The Garden Party)』を発表します。この戯曲は、官僚主義的なルーティンとその非人間化作用を不条理かつ風刺的に描いた作品として、彼の作風を象徴していると評価されています。代表作である1965年の「覚書(The Memorandum)」では、巨大な官僚組織に理解不能な人工言語が押し付けられ、人間関係が崩壊し、代わりに権力闘争が繰り広げられます。こうした作品やその後の作品において、ハヴェルは全体主義体制下の生活を特徴づける自己欺瞞的な正当化と道徳的妥協を探求し続けます。さらに1980年代後半まで精力的に戯曲を書き続け、「集中力の増大(The Increased Difficulty of Concentration)」などの作品を発表します。
1989年11月、プラハで大規模な反政府デモが発生します。ハヴェルは民主改革を求める非共産主義系野党グループの新たな連合体である市民フォーラム(Civic Forum)の指導者となります。12月初旬、共産党は屈服し、市民フォーラムと連立政権を樹立します。この無血革命「ビロード革命(Velvet Revolution)」のパートナー間の合意の結果、ハヴェルは1989年12月29日にチェコスロバキアの暫定大統領に選出されます、1990年7月に大統領に再選され、1948年以来初の非共産主義指導者となります。
1992年にチェコスロバキア連邦が解体の危機に瀕すると、分裂に反対していたハヴェルは辞任します。翌年、彼は新チェコ共和国の大統領に選出されます。しかし、1993から1997年にヴァーツラフ・クラウス(Václav Klaus)首相が権力の大部分を掌握していたため、彼の政治的役割は限定的なものだったといわれます。 1998年、ハヴェルは僅差で再選され、彼の大統領在任中、チェコ共和国は1999年に北大西洋条約機構(NATO) に加盟し、その後欧州連合(EU)や経済協力開発機構(OECD)にも加盟します。憲法上3期目の立候補は出来ないので、2003年に大統領を退任します。
ハヴェルの新作戯曲は、2010年以来の新作である「去る(Leaving)」です。この戯曲は大統領時代の経験を基にした悲喜劇で、政敵と闘いながら首相の座を去る姿を描いており、2008年に初演されます。その後、ハヴェルはこの作品を2011年に監督として映画化します。
・生年月日:1936年10月5日、チェコスロバキア(現チェコ共和国ー首都はプラハ)
・没年月日:2011年12月18日、チェコ共和国フラデチェク(享年75歳)
役職:
・チェコスロバキア大統領(1989年~1992年)
・チェコ共和国大統領(1993年~2003年)
参考書:
・ヴァーツラフ・ハヴェル 「力なき者たちの力」 阿部賢一訳, 人文書院, 2019年
・ヴァーツラフ・ハヴェル 「反政治のすすめ」 飯島 周 監訳, 恒文社, 1991年
・ヴァーツラフ・ハヴェル 「ハヴェル自伝―抵抗の半生」 佐々木和子訳, 岩波書店, 1991年
・ヴァーツラフ・ハヴェル 「ビロード革命のこころー―チェコスロバキア大統領は訴える」 千葉栄一・飯島週編訳v, 岩波書店, 1990年
・Britannica Václav Havel
・Wikipedia Václav Havel



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