私の住む「ル・アール八王子」の由来

Last Updated on 2025年3月31日 by 成田滋

私が組合の理事長を務めるマンション名は「ル・アール八王子」といいます。あるとき理事会で ”ル・アールってどんな意味?”ということが話題となりました。「ル・アール」とは「Le Art」と綴ります。なんとなく英語ではないことが発音から想像されそうです。「ル・モンド」(Le Mondeという夕刊紙をご存知の方なら、「ル・アール」はフランス語だ、とすぐ分かります。ちなみに、「Monde」とは男性名詞で「世界」を意味します。Le は男性名詞につく冠詞です。ついでですが女性名詞の「ラ・メール」(La Mer)は「海」という意味で、女性冠詞のLaがつきます。

 「ル・アール」に戻ります。言葉の歴史は面白いものです。大日本百科事典によりますと13世紀初頭、「学習や練習の結果としての技術」を意味したのが、古フランス語の「art 」といわれます。その語源はラテン語の 「artem」で「芸術作品、 実用的な技術、ビジネス、職業」から派生したようです。「ル・アール」で使われる「art」には5つの意味があるといわれます。第一は芸術、美術、技術、第二は、技とか技法、第三は実用的な知識、第四は熟練とか巧妙さ、第五は自由科目とか教養科目です。私たちが日常で接する「art」は芸術とか美術ですね。

 「art」ですが、元々は「芸術」というよりも、人間の「技」や「技術」といった意味合いを持つ言葉だったようです。このことからわかるように、「技術」という意味での「art」の用法は「芸術」よりもはるかに古く、派生した単語も数多くあります。英語のartの形容詞形である「artificial」は、「人間の技術による」とか「人工的な」という意味です。その例は、AI(人工知能)である「artificial intelligence」です。「artifact」という言葉は人工物という意味です。

 「美」という漢字に「術」を足して「美術」(fine arts)という言葉が生まれます。広辞苑によりますと、美術とは明治時代の西洋哲学者、西周が「fine arts」を訳した言葉で、「本来は芸術一般を指すが、現在では絵画・彫刻・書・建築・工芸など造形芸術を意味する」とあります。さらに、「art」とは芸術という意味でも使われます。古代中国の後漢書では、技芸と学術という言葉で表され、「一定の材料・技術・身体などを駆使して、鑑賞的価値を創出する人間の活動およびその所産」という説明が見られます。

 私が1960年に北海道大学に入学したとき、所属したのが「教養部」でした。ここで広く一般教養を学び、その後に専攻学部に進むという仕組みでしたが、私は本ばかり読んで授業にはあまり出ませんでした。教養部とか教養学部とは英語で「College of Arts and Sciences」と言われ、ここでいうArtsは、前述した自由科目とか教養学科のことです。今では「リベラルアーツ」(liberal arts)とも呼ばれています。

北海道大学農学部

 「liberal arts」の由来はヨーロッパの中世に遡ることができます。中世の大学における科目群は、自由学芸とか自由七科と呼ばれ、文法、修辞学、弁証法、算術、幾何、天文学、音楽から成りました。これらを修めると中世の最高位にあった神学を学ぶことが許されたとされます。自由人にふさわしい全面的な教養を身につけることで、実利性や職業性や専門性を志向する学問と対立するものと考えられました。「liberal arts」とは「人の営み」を研究する学問の総称で、別名「人文学」(humanities)とも呼ばれます。東京大学にヒューマニティーズセンター(Humanities Center)があり、学術としての人文学を研究するところとされています。ついでに私が学んだウィスコンシン大学には「College of Letters and Science」という学部があります。ここでの「Letters」とは学識とか人文的知識という意味です。Artに似た意味があります。

 というわけで、この稿では「ル・アール」とは、学術的にも芸術的にも歴史的にも、薫り高い上品な名称であることを言いたかったのです。

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