伝統「芸術」から「科学」へ

AlphaGoや後続のLeela ZeroなどのAIは、統計的に勝率が高い手を選びます。これにより人間が感覚やバランスを重視していた定石よりも実利重視により、相手に多少地を与えても全体のバランスで勝つという打ち方が増え、AI定石という新しい定石が誕生しました。AlphaGo以後、多くのトッププロがAIとともに研究を深め、これまでの定石辞典が書き換えられています。プロの対局でもAlphaGo由来の打ち方が主流になり、実際の対戦の棋譜が大きく変化しました。

肩つき

 少し話題を変えて、1954年製作の「十二人の怒れる男」というアメリカ映画がありました。ある裁判で一人の陪審員が他の11人の陪審員たちに、固定観念に囚われずに証拠の疑わしい点を一つ一つ再検証することを提案します。やがて少数意見が多数意見となり無罪評決となるというストーリーでした。イスラエルでは会議をするとき、もし出席者7人のうち6人が賛成する発言をしたとき、7人目の人は無条件に反対意見を述べなければならないというのです。多数とは違う少数意見は、それ自体に価値があるという考え方があります。

 この陪審員の評決に関するエピソードを囲碁に当てはめてみますと、固定観念を捨てるとき思わぬ妙手が生まれることがある、ということかもしれません。最近は常識にない手を数々打ち出し、定石の考え方が変わって、新しい定石が生まれています。こうした変化には、固定観念から離れて新しい手を考えて打とうという姿勢があるからです。そういえば「定石を覚えて二目弱くなり」という定石信奉者を皮肉った川柳があります。イスラエルの格言にもう一つ。「何も打つ手がないときにも、ひとつだけ必ず打つ手がある。それは勇気を持つことである。」 私たちには後学のために役立ちそうな含蓄のある言葉です。

ダイレクト33

 AlphaGoなどの登場によって、定石の固定観念から脱皮し「定石は変わった」といえそうです。囲碁の定石は不変のものではなく、AIの登場で大きく進化しています。AlphaGoが示した新しい打ち方は、「AI定石」として現代囲碁の基盤になっています。AlphaGo以降、囲碁は伝統文化という「芸術」から「科学」へと一歩進んだといえるでしょう。

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