留学の奨め その9 研究者の仕事探しと異動

Last Updated on 2025年1月30日 by 成田滋

今回はアメリカの研究者の異動に関する話題である。若手の研究者とって、大学での仕事探しはどこも容易ではない。若いがゆえに業績やキャリアが不足しているので、誰もが一度は通過しなければならない難関である。今は人事では幸いにして人種や性別といったことで差別されることはなくなった。大学におけるポストの空きの広告がでると、自分の研究分野をにらみながら応募することになる。

はじめは、自分の研究業績のレジュメ(resume)を大学に送る。研究業績にはポスドクの経歴とか研究資金の獲得状況なども入る。この書類審査を通過すると大学での人事選考委員会に招かれる。この時の旅費は招く側が負担する。ここが日本と違うところだ。首尾良くポジッションを得るにしても、大抵は3年の雇用契約である。ここから終身雇用身分であるテニュア(tenure)への途が始まる。雇用契約が切れ更新がないとまた仕事探しである。まるで渡り鳥のように転々とする。その間業績を増やしていく。アメリカにもときにコネ (old boy connection) が働く。

tenure track

もう一つは、大学が特定の研究者に招聘状を出す場合である。招聘する側からの一本釣りである。こうした研究者は研究業績にすぐれ、名が知れた人達である。引き抜く方の大学はその研究者の収入などを事前に調べ、それ以上の条件を提示する。例えば1.3倍の給料をだすとか、という具合である。指名された研究者は、提示された待遇、大学の所在地の環境、同僚となるスタッフの研究状況などを調べ自分の研究にプラスになるかなどを考慮する。

このとき、研究者は自分の上司や学部長などに「他大学から1.3倍の給料でオファーがきているが、もし大学が今の給料を上げてくれれば残るが、、、、」と交渉するのである。学部長が「お前に残って欲しい。給料を上げよう」といえば、他大学からのオファーを断る。「予算がないので、給料を上げるわけにはいかない」といえば、オファーをくれた大学に移ることになる。このように交渉が可能なのが面白いところだ。また学部長も予算やスタッフの給料を決める裁量を持っているのも驚く。

総じてアメリカの研究者の給与は高いが、雇用契約や安定度に関しては日本よりも厳しい市場である。日本の大学での人事異動に関する手続きは、人事選考委員会の設置からはじまり教授会での承認という具合に、半年がかりである。実にのんびりとして能率が悪いのはこの上ない。

テニュア(tenure)とは「終身在職権」といわれ、教員の自由な教育研究活動を保障する制度で、終身、あるいは定年まで大学の教員としての身分が保証される仕組みである。

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留学の奨め その9 研究者の仕事探しと異動」への1件のフィードバック

  1. 大学教員がテニュア(終身在職権)を得るためには、研究業績、学生指導、大学業務での役割などが評価されます。

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