お店で買い物をしたとき貰うレシートには、消費税が外税で表示されています。これを見ると「自分たちは消費税を払っている」と思うのも無理もありません。私たちが負担した「消費税分」はそのまま税務署に納められているのではありません。実は我が国の消費税法の五条では納税義務者は事業者でああると規定しています。
店の事業者が税務署に納める金額は、年間売上高に10%(一部8%)を掛けた額から、年間仕入高や人件費などの経費、車などの固定資産の購入費に含まれている消費税分を差し引いて算出されます。これは「仕入税額控除方式」と呼ばれています。つまり消費税は、物品やサービスにかかる税金(間接税) ではなく、事業者の生む付加価値に課税する直接税的なものです。法律的には裁判所によって「税金ではなく、物価の一部」だという判決が確定しています。
アメリカの小売売上税(sales tax) の場合、税金分を消費者が払う義務があります。店はそれを預かり、一定期間まとめてそっくりそのまま州当局に納めるという単純で分かりやすい預かり税という間接税です。日本の消費税はこれとは全く異なる税金です。消費者から見える表の顔,、つまり外税と事業者が仕入税額控除方式によって納めるという裏の顔を持つ、不透明な税金だと言われます。
次に、食料品のゼロ税率という提案についての見解です。まず最初に指摘すべきことは、食料品の消費税ゼロによって価格が下がる保証は全くないということです。消費税の納税額が仕入税額控除方式によって算出されるため、正確な納税額がいくらになるかは決算が終わるまで分からないからです。そのため、食料品の値段を8%下げることに不安を感じる事業者が多いのです。事業主は、価格を決めるのは自分達ですから、従来の税込み価格で販売したくなるだろうと思います。
消費税法には消費税分を価格に転嫁する規定はありません。価格に転嫁する法的義務も保証もないのです。価格は市場の原理、つまり需要と供給の関係で決まります。売れ筋は高く売り、売れなければ安くせざるを得ません。最終的な価格の決定権は事業者にあるのですから、食料品がゼロ税率になっても価格を引き下げる義務はないのです。食料品の消費税ゼロにしても、食料品の値段が8%下がる保証など全くありません。
一般の人々は「消費税率が5%から8%に、8%から10%に引き上げられたとき、物価が税率分上がったではないか。だから税率を5%に下げれば、税率分下がるに決まっている」と反論する者がいるかもしれません。ですが税率引き上げのつど引き上げられた価格というのは、消費税分ではなく、「単なる便乗値上げ」なのです。その最たる例は新聞です。新聞購読料は軽減税率の対象となりましたが、大手のY新聞は軽減税率実施を察知した9カ月前の2019年1月から、セット料金4,037円を4,400円に引き上げました。便乗値上げの最たる例です。もちろんこれは法律違反ではありません。
消費税の税率が引き上げられれば、事業者は堂々と「便乗値上げ」を実行します。事業者は決して「便乗値下げ」をしません。もし値下げがあった場合には、同業者間の競争に勝つためにやむを得ず事業者が下げた結果か、あるいは市場の原理でそうなったかなのです。
食料品ゼロ税率となると不利益となる人々がでてきます。それは外食産業といわれます。飲食店は年間売上高に10%を掛けた金額から仕入税額控除をします。食材仕入れにかかる消費税がゼロ税率になると控除額が激減します。控除額が減ると消費税の納税額が上がるのは当然で、極端な場合、利益が赤字であったも消費税を納めなければなりません。
そこで飲食店側が食材仕入業者に消費税分仕入価格を下げろと要求したとします。ですが食材仕入業者が下げなければならない規定も義務もありません。価格を下げるか維持するかは需要と供給の関係か両者の力関係で決まるのです。弱い立場にあれば、飲食店側は下げてほしいという要求を取り下げるだけです。ひどい場合、飲食店は消費税倒産という事態になりかねません。
このように、食料品ゼロ税率は経済社会を混乱に陥らせる手品のようです。にもかかわらず、政治家は「食料品ゼロ税率は家計が助かる」などと誤った宣伝をして支持を集めようとしています。こうした宣伝にだまされてはいけません。以上のように理解しますと、消費税は事業者間、事業者と消費者との間に価格転嫁の争いを持ち込むような仕組みとなっています。政府はこのような事態に「高みの見物」をしているようです。経済学者の湖東京至氏は、「食料品の消費税率を0%にすることには問題がある」という立場を繰り返し示しています。氏の主張の核心は、「一見弱者に優しい政策に見えて、実際には不公平かつ非効率で、税制全体の歪みが大きい」というのです。
「消費税・社会保障一体化」という台詞も曲者です。消費税率の引き上げによる増収分を、年金・医療・介護・少子化対策といった社会保障の安定財源に充てるという、あたかも国民を「なるほど、、、」と思わせるのは詐欺のようなものです。なぜなら社会保障は消費税ではなく、保険料が財源のはずなのです。急速な少子高齢化を促進したのは、非正規雇用の増加による将来不安とか、子どもを欲しい数だけ持ちにくいといった社会になっているからです。こうした課題を解決しないで、増税で社会保障を賄うというのは本来ならば筋違いなのです。結論ですが、消費税というのはなかなか正体をつかみにくい制度です。もう少し国民に分かりやすく説明すべきではないでしょうか。


