行動科学の発達と応用的行動療法に使われる技術の進歩によって 、いろいろな研究上の計画法が考案されてきた (Baer,1975)。行動分析における方法論も盛んに研究がなされ、例えば心理療法などでLeintenberg(1973)、精神病理ではBarlowとHersen(1973)らが時系列を使った研究を行い 、ノンパラメトリック(Non-parametric)の分野で先駆的な役割を果してきた。今や N−1(単一事例実験計画法(Single-Case Experimental Design: SCED))が行動分析の分野に広くゆき渡ってきたにもかかわらず、教育学や心理学等の研究領域ではこの単一事例実験計画法はあまり一般的ではない傾向がある。これには研究における法則性や普遍性の究明という観点からは、単一事例を扱う実験はこれらの目的を遂行することが極めて難しいということ、事例研究は記述的なものが多く、推測統計学等の対象となりにくいことなどにあると考えられる。
単一事例実験法によって得られたデータには、母集団の特性を推測する手掛りはない。標準的な母数による統計法一パラメトリック法は,もちろん単一事例実験法では使うことが困難である。しかし、 単一事例実験も実験計画に準ずるものとして近年研究が進み、その方法論が次第に確立されつつある。具体的には実験計画の誤差の制御、変数の操作、持越効果の偶然化、等の方略を導入して、独立変数と従属変数の関係を単一事例実験に援用しようとすることである。
CampbellとStanley(1966) は、いろいろな実験計画法を考察しながら単一事例実験計画法を ”one shet case study ”,または”one group pretest−−posttest designと呼んでいる。これらの実験計画法は通称,時系列といわれるが,単一事例の時系列実験計画法はデ ータの収集手続については真の実験計画の場合とは違っているので 準実験計画と呼ばれている。このような時系列を用いた実験の方法は特殊教育の研究にもいくつかの影響を与えてきた。それはベースラインと教育的処遇をセットにした反復測定であり、もう一つ は実験上の妥当性を脅かすいろいろな誤差に関する実験管理の原則にそった実験計画である(Kratochwill, 1978)。
時系列を用いた行動変容に関する望ましい単一事例実験計画、あるいは小数被験者実験計画については、いくつかの議論が存在する。この種の議論とは単に不適切な統計処理が行われるといったことではなく、どのような推測統計法が臨床的判断あるいは社会的妥当性などとの対比で位置づけられるか、もう一つは追認的方法としての推測的統計法の手続は、どのようなものであるべきか,ということである。本稿は前者の論点を考察するものである。
参考文献:
Baer, D. M. (1975).In the beginning there was the response. In E, Ramp & G. Semb(Eds). Behavior analysis: Areas of research and application. Englewood Cliffs、N.J.: Prentice−Hall.
Barlow, D. H. & Hersen, M. (1973). Single case experimental designs: Use in applied clinical research. Archives of General
Psychiatry, 29. 319−325.
Campbell, D. T. & Stanley, J. C. (1963). Experimental and quasi−experimental designs for research. Chicago: Rand McNaly.
Leitenberg, H. The use of single−case methodology in psychotherapy research. Journal of Abnormal Psychology, 82、 87−101.

コメントを残す