Last Updated on 2025年1月17日 by 成田滋
2016年上半期の警察が児童相談所に報告した児童虐待の件数はこれまでに比べて最も多いといわれます。厚労省のまとめで判明したことは、虐待の集計を始めた1990年度から、26年間連続で増加しているというのです。これは虐待の事実を市民がさまざまな啓蒙活動によって理解し、「しつけ」ではない行為として認識してきたからだと察しられます。思うに世の中が経済的に一応は安定している状態ですから、逆説的な見方ではありますが、いじめも自殺の件数も多くなっているというのではないかと考えます。
どういうことかといいますと、戦後の苦しい世相にあって、人々は食べることに四苦八苦していました。そのような状況では、子ども同士でいびり会うとか喧嘩をするとか、食べ物を盗むという行為は多かったでしょうが、人を殺すとか自殺するような心情に人々はなれなかったはずです。皆必至に生きることに駆け回っていたのが実情でしょう。今日はどうでしょう。アメリカの話題です。最も自殺者が多い月は12月のクリスマスの前後です。人々はクリスマスの贈り物をなににしようか、どこで買い物をしようか、家族との再会といったことで気持ちが高揚します。同時にそれを横目でじっと見る孤独な人々も大勢います。最も気分が浮き浮きする月と最も落ち込む月が12月なのです。
今、日本では食糧難とか住宅難といった戦後間もなくの頃の事情とは一変しました。だからといって貧困や就職難がないわけではありません。生活がなんとかなる時代となりました。いざというときは生活保護法とか生活困窮者自立支援法などというセーフティネットもあります。ですがこの一般的に経済的に豊かになった社会が、人々のいい知れない不安を増長させているのです。富める者と貧しい者との格差です。虐めや子どもの自殺もこうした世相を反映する病理現象といえそうです。
「虐め」の本題に入ります。「虐め」という漢字は虎と爪から生まれる造語です。虐めには三つの意味があります。この漢字を使った用語には次のようなものがあります。
例:虐待、残虐、虐殺、虐政、虐使、虐刃、虐刑
1 「しいたげる」
「見ていられないくらいの行為をして苦しめる」、「いじめる」
「人の気持ちや身体の調子を悪くする」
2 「むごい 」「見ていられない程、悲惨・痛ましい行為」
3 「わざわい」「人に不幸をもたらす出来事」
100時間の超過勤務も過労死も虐待といえる現象であります。このように考えてきますと、いじめはひらがなではなく漢字で表記するとその内容がよく伝わってきます。
次ぎに虐めの定義について文科省が発表しているものです。
「いじめ」とは、「在籍している児童生徒と一定の人的関係のある、他の児童生徒が行う心理的又は物理的な影響を与える行為で、インターネットを通じて行われるものも含みます。当該行為の対象となった児童生徒が心身の苦痛を感じているものとします。なお、起こった場所は学校の内外を問いません。」
しかし、こうした虐めの定義や知識を得ることが、何かの効能や効果があると決して信じてはならないことです。虐めの定義というものは、社会や時代の変容によって変わりうるものです。この定義から「インターネット」という用語を省きますと、戦後の小学校や中学校で当たり前のように起こっていたいじめとなんら変わるものではありません。かといって、いじめが深刻な問題となるようなことはありませんでした。虐めは時代とともに子どもや大人の世界をも表すようになりました。最近のいじめは陰湿になってきた、ということをしばしば聞きます。陰気で、明朗でない行為という意味だそうです。見て見ぬふりをするとか、立ち入らないといったことでしょう。周りの者に気付かれないようにする行為ということです。
陰湿ないじめの代表はインターネット上のやりとりです。保護者も教師も把握するのが困難な世界です。暴言を使う、例えば「死ね」少し古いですが「ポアする」「うざい、汚い」等を使ったネット上の会話です。さらに金銭をせびる、などの行為です。子どもが多くの小遣いを持っているのも原因しています。小遣いを一万円とか三万円と持つこどもが沢山います。持てる者がいる一方で、他方持てない者もいます。そのことでコンプレックスを持つ者も大勢います。塾に通うもの、通えない者など、貧富の差はあちこちで起こっています。
コンプレックスは子どもを悩ませるのです。生活保護世帯の子、片親の子などを皆さんは指導しているはずです。成績が悪い、引っ込みがちである、虚弱であるというのは劣等感につながります。自信が持てないと思う子どもに限って、自分を目だたせようとして、見せかけの優越で自分の劣等感を代償しようとする行為も我々は知っています。