2つの連邦最高裁判所判決

Last Updated on 2025年3月11日 by 成田滋

現在、合衆国の裁判所は、親には子どもを私立学校に通わせる憲法上の権利と固有の教育を提供するホームスクール(HS)を含む私立学校を選択する権利があると裁定しています。ですがそこに至るまでは、いくつかの歴史的とも言える裁判事例がありました。それを紹介いたします。

 かつて1920年にネブラスカ州は、小学生に英語以外の言語を教えることを禁止する法律を可決したことがあります。ルーテル派の学校でドイツ語を教えていたロバート・マイヤー,(Robert T. Meyer)は、この法律に基づいて有罪判決を受けます。これがマイヤー対ネブラスカ州(Meyer v. Nebraska)裁判です。この背景には、第一次世界大戦でアメリカの敵国となったドイツにルーツを持つドイツ系アメリカ人への偏見、アメリカ人としての共通言語である英語を習得することを通じて、すべての子どものアメリカ化を推進するという公教育観があったことが指摘されています。

Home Schoolers Anonymous より

 1923年に最高裁判所は、ネブラスカ州の法律が第14修正条項の適正手続き (Due Process Clause of the Fourteenth Amendment)で保護されている自由を侵害しているとして、違憲であると宣言します。裁判所の説明によると、自由とは、身体拘束からの自由以上の意味を持ち、教師が生徒にドイツ語を教える権利や、親が適切と考える子供の養育を管理する権利も含まれるとします。州は、市民問題に関する議論に参加できる正当な関心を持つとしても、この目的を追求するために州が選択した手段は行き過ぎであると判断を下したのです。

 最高裁判所の多数意見は、適正手続き条項によって保護される自由を次のように説明します。すなわち「疑いなく、単に身体拘束からの自由を意味するだけでなく、契約する権利、生活の一般的な職業に従事する権利、有用な知識を得る権利、結婚する権利、家庭を築き子どもを育てる権利、自分の良心の命じるままに神を信じる権利、そして一般的に自由人が秩序正しく幸福を追求するために不可欠であると認識されてきた特権を享受する権利も意味する」と述べています。

Boston University サイトから

 オレゴン州には1922年の州民投票により、公立学校には市民の同化・標準化という役割がある一方、私立学校にはその役割は求められていないとして、8 ~16歳の子どもを公立学校に就学させることを親に強制する法律を施行します。違反した場合は刑罰規定も設けられていました。1925年にピアース対シスター協会(Pierce v. Society of the Sisters) という裁判が起こります。シスター協会は1880年に組織されたオレゴン州の法人でいくつかの学校や孤児院も運営していました。ピアースとはオレゴン州知事のWalter Pierceのことです。シスター協会は、オレゴン州法は修正14条によって保障された法人の権利を侵害しているとして提訴したのです。

 1925年に最高裁判所は、親が義務教育の要件を満たすために子どもを私立学校に通わせることを州は禁止できないと判断します。この事件は、親には家庭学習を通じて義務教育の要件を満たす権利があるという主張を支持し、「私立学校の自由」の前提となる「親の教育の自由」を再確認する私立学校の存在意義を明確に認めた重要な判決となります。

 こうした判例によって親が子どもをHSで学ばせる権利は、その後の裁判所の判決によっても明確に宣言され、それに違反するような法律や通達は、憲法またはその他の理由で確実に無効にされているのです。なお、適正手続とは、法の定めるところに従って公権力が個人に対して行う手続きを指します。

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