Last Updated on 2025年3月4日 by 成田滋
ティム・ハーフォード(Tim Harford)という人の著書、「統計で騙されない10の方法」は、統計を信じて、それに基づいて判断する人々に「ちょっと待ってください」という警告をするのを忘れていません。得てして統計は人を納得させる手段として使われています。それを正しいと思いが私たちの中に作り上げられていきがちです。政府や企業、新聞などの統計データですら、どのようにしてデータが集められたかは明らかでないことが多々あるのです。

特に新聞は、政府の各機関に常駐する番記者が、提供されたものを基にして記事にするので、各新聞の記事は似たり寄ったりの内容となります。新聞社がテレビ会社などは、各部署があってその部署に属する記者だけが記事を書きます。政治部の記者が、社会部や経済部の記者に代わってある政治課題を取材し記事にするのは社内の掟に反するのです。さらに言えば、省庁と番記者はいわば緊密な関係を保っているために、省庁からの情報に反論したり異議を唱えることはしません。もし、そんなことをしたら番記者をはずされ、出世が閉ざされるのです。
現在、「財務省解体」というスローガンでデモが行われています。財務省から発表される諸々のデータついて、都合の悪いものは公表されないということへの抗議でもあります。このような記事は大手の新聞やテレビでは一切報道されません。その理由は財務省に記者らが忖度しているのか、記事とするとどこかに飛ばされると心配するからでしょう。従って、こうした記事はもっぱらSNS上で流れて拡散しています。「財務省解体」の声を知るのは、SNSの利用者だけという状態です。何を国民に伝えるか、伝えないかを省庁や記者の判断で決めることの恐ろしさを感じます。
ハーフォードの統計に関する知見に戻ります。彼は、私たちが陥りがちな統計データからの誤った理解をしないようにとの立場から、次の10の掟を提案しています。
- 統計を伴うなんらかの主張に対して、自分がそれからどのような感情や反応を持つかを意識する。データから受けた印象だけですぐに飛びついたり、否定してはいけない。
- 統計的な手法から考える「鳥の目」と個人の体験から考える「虫の目」とを組み合わせて判断する。
- データの説明をよく調べ、意味することが自分は理解できるかを自問する。
- 比較や文脈から全体像からの主張を考えてみる。
- 統計がどのようにして作られたかの背景に目を向ける。他に隠れているデータがあるかもしれないと考えてみる。
- なにかデータに欠けているのではないか、という疑問を持つ。
- データの収集方法が偏っていないか、データの統計処理が正しいかについて注意を払う。
- 公的な統計データに全幅の信頼をおくことはしない。
- グラフやチャートの表側と裏側を見比べてみる。特に美しいグラフは記憶に残り安いので注意を払う。
- 偏見や偏った理解をしない頭脳を使って、統計データを見て考える姿勢を保つ。
都合の悪いことは公表しないというのは、過去、日本でも世界でも日常化している事実です。このような姿は、予算審議の国会でも見られています。「外交に関わる、貿易交渉に関わる、刑事訴追の恐れがある案件なので答えるのを差し控えたい」と大臣は口を揃えて言います。森友問題で財務省は国会で様々な追求を受けると、ようやく「14件の決裁文書を書き換えた」ことを認めるという無様な対応をしたのは記憶に新しいことです。さらに森友学園への国有地の売却金額は非公開とされたのですが、その後新聞報道を受け、財務省は一転して売却価格は1億3400万円であると公表したという事実もありました。
