Last Updated on 2025年3月29日 by 成田滋
これから数回にわたりアメリカ現代史で、特に政治にかかわる話題を取り上げることとします。シカゴ大学大学院修了で歴史家・ジャーナリストのコリン・ウッダード(Colin Woodard)は、アメリカは歴史的・文化的な成り立ちが異なる11種類の「国」(ネーション: nation)で構成されていると主張しています。この論点は、「11の国のアメリカ史」(American Nations: A History of the Eleven Rival Regional Cultures in North America)という著作に表れています。 彼は、長らくクリスチャン・サイエンス・モニター(The Christian Science Monitor)やサンフランシス・コクロニクル(San Francisco Chronicle)といった新聞でも記者の経歴があります。
合衆国は、確かに50の州からなる国です。しかし、ウッダードは、実は共通の文化、民族的起源、言語、歴史的経験を持つ「ネーション」で構成されていると主張するのです。ネーションとは、共通の文化、民族的起源、言語、歴史的経験、工芸品、シンボルを共有しているか、あるいは共有すると信じている人々の集団のことです。決して一つのアメリカがあるのではなく、いくつかのアメリカがあり、そのそれぞれのネーションが何世紀も前から独自の価値感を保ってきたという分析です。
アメリカの歴史では、同じようなパタンでネーションが互いに、特に政治思想で反目し合っているのを確認できるといわれます。大統領選挙の際の政党や候補者の主張がそれに表れます。そこでは、アメリカ市民の政治的な選好は煎じ詰めれば、アメリカの市民生活の鍵概念である「自由」をいかに推進するかをめぐる二つの考えに必ず帰着してきたといわれます。
共和党は農村部、民主党は都市部で強く、大統領選挙などでは人口構成によって投票前から結果が明らかな州も多いといわれます。民主党が優位な州は「ブルー・ステート(blue states-青い州)」、共和党が強い州は「レッド・ステート(red states-赤い州)」と呼ばれています。青と赤はそれぞれの党を象徴する色のことです。リベラルな政策に賛同する人が多い「青い州」は北東部や西海岸、キリスト教福音派信者( christian evangelical)ら保守派住民が多い「赤い州」は南部に広がります。このような特徴が2024年の大統領選挙結果でもはっきり表れました。
ですがウッダードは、アメリカの最も基礎的で永続的な分裂は、共和党支持州と民主党支持州、保守とリベラル、労働者と資本家、黒人と白人、信仰心の厚い人々と世俗的な人々の間にあるのではない、という主張は興味あります。これからこの考えを深掘りしていきます。
