世界を旅する その十九 アイルランド その8 スウィフトとアングロ・アイリッシュ文学

Last Updated on 2019年8月9日 by 成田滋

アイルランドが英語による文学、つまりアングロ・アイリッシュ文学(Anglo Irish literature)のすぐれた作品を生み出したのは、イギリスの統治が進み英語が十分に日用語化した17世紀後半といわれます。18世紀以降に現われたアイルランド人による英語で書かれた文学作品は、皮肉にもイギリスに対する痛烈な批判や社会風刺でありました。

ブリタニカ百科事典によりますと、19世紀初頭のアングロ・アイリッシュ文学は、民族主義と自由主義、そして革命がこの時代の空気であり、一方ロマン主義の影響も現われ初めていたといわれます。長い間、イギリスの統治という忍従に耐えてきたアイルランドは自らの足で立ち上がり、特異な生き様を文学作品において語り初めたのです。

Jonathan Swift

ケルト民族の伝統を継いだ文学者で、アイルランド古典文学再生の先駆をなしたのが、ジョナサン・スウィフト(Jonathan Swift)といわれます。スウィフトはアイルランドで生まれダブリン大学で教育をうけます。そして不朽の名作「ガリヴァー旅行記(Gulliver’s Travel)」を世に送ります。

この冒険小説は、我が国でも童話として広く紹介されるほど、面白いストーリーと展開です。しかし、全体を読んでみますと単なる空想的な冒険談でないことがよく分かります。スウィフトが選んだテーマはイギリス政府の過酷なアイルランド政策による屈辱であり、それを痛烈に非難し、イギリス社会にどっぷりと根ざした精神性や伝統を冒険談にくるんで風刺しようとしたことなのです。