Last Updated on 2025年3月10日 by 成田滋
子どもの学習の場は、学校だけではありません。もともと人間は子育てや教育を家族が行っていました。それが次第に人々の価値観とか地域社会の変化によって、学校という形態をとっていきます。時代が経過すると、親の働き方などによって、子どもを集めて学ばせることが次第に浸透していきます。子どもを年齢によって教育するのが発達的にも経済的にも合理的であり、その副産物として集団生活によって子どもが成長するということが理解されてきたからです。
しかし、あくまで子どもを家庭で教育したいとか、家庭で教育すべきであると考える人々もいます。それは、宗教的な信条、子どもの発達上の特性、貧困で治安の悪い地域環境、既存の学校教育に対する疑問などがその理由です。このような家庭を基盤とした私立教育プログラムをホームスクール(Home School: HS)と呼んでおきます。
HSには、3つの形態があります。第1は、教育をすべて家庭が責任を持って全うするというやり方です。こうしたHSを望む家庭は、宗教的な理由によって、子どもが社会の悪い影響を受けて世俗化することを心配するのです。第2は、HSを実践する人々が集まって意見を交換し合ったり、学習教材を共有したり、子ども達が一緒に活動するような場です。そうした人々は、グループを組織して互いに学び合ったり、時には行政に働きかけし、HSを公的に認知させる運動をします。第3は、地域の公立または私立の学校とパートタイムの登録をし、家庭が実践するのが困難な体育や実験などは学校へ子どもを通わせるというやり方です。ですが基本的な教科の学習は家庭が受け持つのです。
HSの3つの形態の1番目の実例を紹介しましょう。私の友人はミネソタ州のルーテル教会で牧師をしています。彼は新潟県の新発田市で生まれます。父はミズリー派ルーテル教会の宣教師でした。ミズリー派ルーテル教会は全米にいくつかの大学を運営し、伝統的なルター派の神学を受け継いでいる教派です。教会立の学校なども多数擁している教会です。彼は代々、牧師の家系で育ち、宗教教育を受けてきました。友人もその奥方も学位を有し、そうした環境のせいだろうと察しますが、HSで子どもを教育してきました。公立学校で子どもを学ばせたくないと言っていたのを覚えています。
HSの3つの形態の2番目の例です。ウィスコンシン州の各地に小さなHSの組織があります。その中心がウィスコンシン・ホームスクーリング保護者協会(Wisconsin Homeschooling Parent Association: WHPA)です。この協会は、州内で組織されている23のHSのグループを束ねています。こうしたグループは、子どもと親が毎週とか毎月、定例の会合を開き、相談しあったり、運動したり、クラフト作りをしたり、読書会を開いたりしています。WHPAは、1983年にウィスコンシン州教育委員会に対して、HSを学校以外の場所での指導と定義し、そのようなプログラムは州教育委員会によって公立または私立学校と実質的に同等であると承認させることに貢献します。
HSの3つの形態の3番目の例です。私の次女は、ウィスコンシンのマディソンで小学生の二人の娘をHSで育てました。彼女はウィスコンシン大学とジョージワシントン大学で学び、今はスクールナース(学校看護師)をしています。娘たちの住む家から一分のところに小学校がありました。こんな近くに学校があるのにどうしてHSをしたのかを聞くと、「自分で娘達を教えたかった」と言いました。娘たちはこの学校にパートタイムの登録をしていました。主要な科目は母親が教え、体育や理科の実験などは、学校に出向いて学ぶ、という日課だったようです。このように自宅と学校の両方で学ぶというのもHSの一つの形態です。
