Last Updated on 2025年3月3日 by 成田滋
『統計で騙されない10の方法』、『How to Lie with Statistics』(いかにして統計で嘘をつくか)という2冊の本を読みました。タイトルからして盾と矛の対決となりそうな興味ある話題でもあります。日頃目にする数字やグラフ、調査結果などから数値の裏にある真実のようなことを探ることを著者は推奨しています。「統計」とは、文字通り「すべてを集めて(統)計算する」という意味になっています。 個々の事柄を問題にするのではなく、全体を集めてその姿を観察しようということを表す言葉です。
いろいろな報道やインタビューの様子、そして統計資料が毎日のように見られます。そこから私たちは何かを学び、感じます。通常、それが正しいものであるという印象を持つもので、それはそれで仕方ありません。でも統計資料を集めることの裏側を知ると、資料そのものは客観的なものであるのかという疑問が沸いてくるものです。
『How to Lie with Statistics』という本には次のようなインタビューの結果が掲載されています。
第二次大戦中、アメリカの全米情報リサーチセンターが、二つのインタビュアーのグループを派遣し、アメリカのある南部の都市で500人の黒人に3つの質問をします。一方のスタッフは白人のインタビュアー、もう片方は黒人のインタビュアーが担当します。
そして次のような質問を黒人達に尋ねたのです。
『もし日本がアメリカを支配した場合、黒人の扱いは良くなるか悪くなるでしょうか』
黒人のインタビュアーが質問したところ、「黒人の扱いは良くなる」と答えたのは9パーセントで、「黒人の待遇が悪くなる」と答えた人は25%となりました。次に白人のインタビュアーが尋ねると、「黒人の扱いは良くなる」と答えたのは2パーセントで、「黒人の待遇が悪くなる」と答えた者は45%を上回ったというのです。日本人をナチスドイツ人に置き換えても、結果は同じであったというのです。
黒人に尋ねたもう一つの質問は次のようなものです。
『枢軸国を打ち負かすことに集中することと、民主主義を自国でよりよく機能させることのどちらが重要だと思いますか?』(枢軸国とはナチスドイツ、イタリア、日本のこと)
黒人のインタビュアーによれば、枢軸国を倒すことが重要だという黒人からの回答は39%で、白人のインタビュアーによれば、黒人からの回答は62%であったというのです。
このインタビュー調査から容易に推測できること、それは「喜ばれる答えを出したい」という黒人の感情であったと思われます。 戦時中にアメリカが勝つことが大事か、あるいは民主主義をより機能させるほうが大事か、という国民の忠誠心を図るような質問に対して、白人のインタビュアーに、南部の黒人が自分が実際に信じていることよりも、聞こえのいいことを答えたと推測しても不思議ではないということです。
この調査から分かるもう一つのことは、未知の要因によってもたらされる回答者側のバイアス(bias) があるということです。バイアスとは、偏見や先入観、思い込み、感情などの影響で、認識や判断、意思決定が歪んだり偏ったりすることです。このような世論調査の結果を読み解く際に必ず考慮しなければならない傾向があります。それはインタビューの結果をもたらした最も大きな要因は一体なんであったかを考えることです。このような類いの調査では、調査の回答者グループが同じであっても調査者や調査箇所が違ってくると、その結果も違ってくることを知っておくべきであります。バイアスのかかった情報の収集の仕方は、一度立ち止まって疑問を呈しなければなりません。
街頭でいろいろなインタビューが行われるのをテレビで見かけます。質問者の意図と回答者の言葉から、視聴者が期待するようなやりとりが多いことがわかります。
