16世紀後半、最大の教会音楽家がパレストリーナ(Giovanni Pierluigi da Palestrina)です。パレストリーナは北ヨーロッパのポリフォニー様式の影響下にあった音楽家の世代に属します。イタリアにおけるルネサンスの時期、音楽は今のオランダやベルギー、北フランスのフランドル(Flandre)が中心でありました。ローマ教皇庁の音楽隊にもフランドルの音楽家を招くという有様でもありました。ところが、パレストリーナはイタリア人音楽家として大きな名声を得て教皇庁も無視できない存在となります。やがて、イタリアでポリフォニー様式が支配的地位を得ていく理由は、前述した作曲家ジョスカン・デ・プレ(Josquin Des Prez)の影響によるところが多いといわれます。
パレストリーナ作品の大部分をなす教会音楽は、均整のとれた構成、静かに流れるおおらかな旋律、荘重で厳粛な典礼性を有しています。グレゴリオ聖歌に次ぐ典礼音楽の模範となっています。作品はミサ曲105曲、モテット375曲、マニフィカート35曲、宗教的マドリガル50曲、世俗的マドリガル90曲に及びます。ほとんどの作品が無伴奏合唱音楽の形態を持ち、4〜5声部が一般的です。
初期の作品は、一般にフランドル楽派の技巧的対位法を駆使しています。中期には歌詞の理解、楽曲の構成に高い統一がみられます。これがパレストリーナの独自の形式となります。後期になるとマドリガルの適用で2重唱の技法が輝かしい響きとなり、ラッソのような主観的で激情的な表現をしません。
パレストリーナの音楽の基礎は、ルネッサンス期の声楽ポリフォニーにおける模倣対位法の技法です。自然に流れる全音階的な美しさで知られます。旋律はきわめて厳格な声部進行の原則を保っています。跳躍も長・短3度、完全4度、5度、8度までとなっています。数多くの教会音楽を作曲し、中でも「教皇マルチェルスのミサ曲」(Missa Papae Marcelli)は彼の代表作とされています。
一種の抑制された静観的な雰囲気は、彼の言葉に対する信仰から発していると思われます。新しい表現の分野や様式を開拓するのではなく、あくまで伝統的な技法によって声楽ポリフォニーの理想を追い求めているかのようです。
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