心に残る名曲 その三 カンタータ第140番「目覚めよと呼ぶ声が聞こえ」

カンタータ第140番BWV645 は「コラール・カンタータ(Choral Cantata)」と呼ばれる形式によっています。コラール(Choral)とは聖歌隊の合唱、あるいは簡単な単旋律によるルター派の賛美歌といわれています。Choralの発音では「Cho」にアクセントがつきます。

「宗教的な記述に基づく声音とオーケストラのための音楽形式」、「重唱から成る声楽曲」などと呼ばれるのが「カンタータ」です。ひとつの賛美歌の歌詞や旋律をもとにして全曲が構成された教会カンタータを「コラール・カンタータ」という場合もあります。

音楽大事典によりますバロック(Baroque)時代のドイツにおけるカンタータは、主に宗教音楽の分野で発展したことです。ドイツにおける教会カンタータは、狭義においては、教会音楽にイタリアの世俗声楽曲であるマドリガル(Madrigal)様式の自由詩に基づく作品といわれます。今日では、プロテスタント教会の礼拝において演奏された複数の独立した楽章からなる声楽曲のことを指し、17世紀に作曲された宗教作品も含めることが一般的とされます。なお、Baroqueとは16世紀末 美術文化の様式のことです。

マドリガルは16世紀から17世紀に栄えたイタリアの世俗声楽曲のことで、歌詞や詩句の部分が同じ旋律が繰返されるのが特徴となっています。16世紀の作曲家ラッソ(Orlando di Lasso)の「マトナの君 」(Matona, mia cara)は読者の方々もどこかで聴いたことがおありのはずです。

さて、本題のカンタータ第140番のことです。このカンタータの基礎となっているコラールは、16世紀のルター派教会牧師ニコライ (Philipp Nicolai)のコラールを第1曲、第4曲、第7曲に用いています。そのコラールの原典は、三位一体節(Trinity) 後第27日曜日の福音書日課であるマタイ伝(Gospel according to Matthew)第25章1〜13節です。この日課は、「天の国は次のようにたとえられる、十人の乙女がそれぞれともし火を持って、花婿を迎えに出て行く、そのうちの五人は愚かで、五人は賢かった」とあります。こうして到着する花嫁のたとえを用いて、神の国の到来への備えが説かれます。それをふまえ、真夜中に物見らの声を先導として到着したイエスらの待ちこがれる魂との喜ばしい婚姻へと導かれるというのです。17世紀後半にイタリアで作曲されたレシタティーヴォ(Recitativo)とアリア(Aria)からなる独唱と通奏低音のための歌曲でもあります。