主人公の壱式四郎兵衛は元鳥居元忠の家臣です。主君から不興を買い琵琶湖近くに隠棲しています。そして勘当の許しを待っています。妹、萩尾の結婚のことで土地の豪族の当主である佐伯又左衛門と諍いを起こします。それは、又左衛門が萩尾を妻にと四郎兵衛に望むのですが、四郎兵衛から婉曲に断られたのが原因です。
四郎兵衛は籔下の家で賃取りの箭竹つくっているのですが、生活苦は一段ときびしくなります。折から、又左衛門は家康が上杉征伐に出陣のあと、伏見城の留守を預かった鳥居元忠ら1,800人が、石田三成軍ら四万人の軍勢に取り囲まれていることをしります。そして馬を曳き、鎧兜を負って四郎兵衛宅に駆けつけ、出陣の餞けとして贈ります。勘当の許しが届かないのは、元忠が敵に包囲されたためでした。
四郎兵衛は萩尾と又左衛門の結婚を許し、「鉢の木」の謡を朗吟しながら、四郎兵衛は恐らく再び還ることのない戦場へ勇躍出陣していきます。
「さて合戦はじまらば、敵大勢ありとても、かたき大勢ありとても、一番に割って入り、思う敵とより合いて死なん、、」
四郎兵衛は兜の下から萩尾と又左衛門をじっと見つめ、さらばと云いながら大股で外にでていきます。馬がたかくいななき、すぐ馬の蹄の音がおこり、それが道へと出て行きます。萩尾はつよく眼をつむります。馬上の兄の顔がありありと見えるのです。