架空の「エミール(Emile)」という金持ちの孤児で健康な少年を著者のルソー(Jean-Jacques Rousseau)が育てていくという設定で書かれています。誕生から年令にそって、子どもに何をどう教えるべきか、そして一人前の人間としてどのように育てるかという教育論が語られます。
ルソーはエミールをして、人間は生まれつき善良であることを知り、そのことによって自分自身によって隣人を判断できるのが大事だと説きます。社会がどのように人間を堕落させていくのか、人々の偏見のうちに社会のあらゆる不徳の源がなんであるか、個人の一人ひとりが尊敬を払うことの大切さも説きます。当時の教会を中心とする価値観や伝統などの慣習から解放され、個人の自由を理想とするとことを訴えます。
「神は、人間が自分で選択して、悪いことではなくよいことをするように、人間を自由な者にしたのだ。神は人間にいろいろな能力をあたえ、それを正しくもちいることによってその選択ができるような状態に人間をおいている。」
「学問の研究にふさわしい時期があるのと同様に、世間のしきたりを十分によく理解するのに適当な時期がある。あまりに若い時にそういうしきたりを学ぶ者は、一生のあいだそれに従っていても、選択することもなく、反省することもなく、自信はもっていても、自分がしていることを十分に知ることもない。しかし、それを学び、さらにその理由を知る者は、もっと豊かな見識をもって、それゆえにまた、もっと適切で優美なやり方でそれに従うことになる。」
伝統やしきたりで縛られる不幸な社会に生まれる子どもを、いかに「自然人」として育てあげるか。ルソーは「人間はもともと自由なものとして生まれた」というテーゼから論じています。
ルソーは、「自然による教育、人間による教育、事物による教育」という三つの柱を示しています。自然による教育とは、これは子どもの成長のことです。人間による教育は教師や大人による教育です。事物による教育は外界に関する経験から学ぶということだと主張します。