心に残る一冊 その39 「若きウェルテルの悩み」

5月4日に始まり、9月10日におわるこの小説の第一部は、ヨハン・ヴォルフガング・ゲーテ(Johann Wolfgang von Goethe)の処女作で、自身がその当時、友人と妹コルネリア(Corneria)にあてて書いた手紙をもとに構成されています。物語られることは、ほんどすべてウェルテル(Werthers) の恋人ロッテ(Charlotte Buff)への愛を中心としています。ウェルテルはそのままゲーテの青春のようなのです。ドイツ語の原題は「Die Leiden des jungen Werthers」となっています。Werthersの発音はドイツ語読みではウェルタ−、 Charlotteの愛称はロッテとなっています。

前半では、ウェルテルが自殺にまで追い込まれるような悲観的な雰囲気がでていないばかりか、むしろ健康的であるということを印象でけています。しかし、不安に絶えきれなくなったウェルテルはロッテの魅力から逃走します。

「ああ、わきたつ血が血管のすべてをかけめぐる、ふとぼくの指が彼女の指にふれ、ぼくたちの足がテーブルの下で出会ったりするときに。火にふれたようにそれをひっこめる。あらゆる感覚が迫ってきてくらくらっとする。」

「承知しました。愛するロッテ。万事取りはからいます。どうかたくさんご用を言いつけてください。どうかなんどでも。一つお願いがあります。ぼくに書いてくださる便箋に、どうか吸い取りの砂をまかないでください。きょう、それをいただいて、いそいでくちびるにもっていきました。おかげで歯がじゃりじゃりになりました。」

第二部は10月20日から12月6日の日記となります。舞台の季節は春から秋に移ります。明るい自然は陰うつな雰囲気にかわります。身辺におこるさまざまな不愉快な事件のために、すっかり憂うつになったウェルテルは、世間的な希望を失い、はてはロッテに対する恋にもまったく希望を持てなくなります。そして自殺の道を選びます。

「人間を幸福にするものが、また人間の不幸のもとになるということは、避けがたいことだったのか?」

著者ゲーテはウェルテルこのように言わしめます。このゲーテの作品は、お涙頂戴の物語ではありません。「恋愛、芸術、思想などどんあ分野であれ、絶対的名ものに人が執着するときの避けられない宿命的な結末が主題である」とブリタニカは記述しています。

日本でゲーテの名を知らしめたのが1913年に森鴎外が「ギョエテ伝」を出版したことだといわれます。それ以来、若者の間で「ギョエテとは俺のことかとゲーテいい」といった駄洒落も流行しました。ゲーテの作品中、日本で最も多く重ねて翻訳されたのがこの「若きウェルテルの悩み」とわれます。