心に残る一冊 その12 「チボー家の人々」

「チボー家の人々」(Les Thibault)の舞台は20世紀初頭のフランス。カトリック(Catholic)とプロテスタント(Protestant)両教徒の2家族や新旧両世代の人々、合理主義とロマン主義を信奉する兄弟が登場します。著者はロジェ・マルタン・デュ・ガール(Roger Martin du Gard) 。 翻訳したのは山内義雄氏で、1952年でに白水社から出版されています。

チボー家の父親は、厳格なカトリック教徒で、封建的な規律を子供達に教えようとします。長男のアントワーヌ(Antoine)は、社会奉仕に一生を捧げやがて医者になります。彼は父が考える「社会的な人間」としてまっとうに育っていきます。他方、弟のジャック(Jack)はそこからなんとかして逃れ出たいと願います。そして彼は違う道を選ぶのです。危うくも幸福な青春時代は去り、晴れて入学した高等師範学校を辞退し姿を消してしまいます。兄弟の国防の義務についての対立も鮮明になります。ジャックの友人でプロテスタントの家庭の息子であるダニエル(Daniel)は世の中の流れに無関心な青年です。

父チボーが亡くなり,古いフランスは過ぎ去り、ヨーロッパは大きく変わります。フランスは第一次世界大戦という大きな混乱の中に巻き込まれていくことになります。フランスにも動員令がでます。ジャックは社会の矛盾に苦しみ、やがて革命にのめり込んでいきます。徹底的に戦争に反対するために戦おうと決意します。自分の意思や生き方に共感してくれるジェンニー(Jenny)の存在との板挟みになります。アルザス(Alsace)の戦線では毒ガスが使用される悲惨な戦いが続きます。アントワーヌは毒ガスによって虫の息、ダニエルも戦場で負傷します。召集されたジャックは病に冒され臨終の時を迎えます。ジャックは病の床でいいます。

「おれの死ぬ月だ。希望を失ったということは、飢餓の苦しみよりさらに苦しい。それでいながら、おれの中にはまだ生の鼓動がある。しかも力強い。、、おれは時々物を忘れする。数分間、おれは昔の自分にかえり、他の人々同じような気持ちになり、なにか計画さえたててみる。と、とつぜん氷のようないぶき、。再びおれにはわかるのだ。」