認知心理学の面白さ その三十 「流動的知能」とレイモンド・キャッテル

キャッテル (Raymond Cattell)ほど、有名でしかも学会で物議をかもした心理学者はいないでしょう。後の研究の素養はロンドン大学(University of London) のキングス・カレッジ(King’s College)での物理学や化学を勉強したことからの知見にあったのだろうと察せられます。科学の方法を学んだことが、アメリカに渡ってからの人格、気質、認知能力、動機や情動の人の知能や技能、異常心理学と治療の研究につながります。統計学の手法である多変量解析や因子分析によって16の人格要因モデルを提唱します。

キャッテルは二つの知能を提唱します。「流動的知能」 (fluid intelligence )と「結晶的知能」(crystallized intelligence)です。「流動的知能」は遺伝的に受け継がれるもので、個人差を説明するものとして役立ちます。そのピークは成人の初期にあり、その後は徐々に下降していきます。その理由は年齢と相関がある脳の変化にあると考えられます。つまり生理学的なものが「流動的知能」というわけです。

「流動的知能」は抽象的な考えや推論する能力であり、あらかじめ練習や教示がなくとも、ものごとの間の関係を見いだす能力であるとします。一連の思考ないし推論能力で、どんな論的ないし内容にも適用可能な状態であるとも考えます。やり方が前もってわかっていない場合に、私たちが用いる知能のあり方に使われるます。問題解決やパタン認識といった過程において自動的に働く作業記憶の能力と密接な関係があるとします。