母子関係の重要性を強調するあまり、父親の役割を過小に評価していると批判されてきたのがボウルビです。彼の母親と子供の成長の関係に関する研究は先駆的であったのですが、その後、社会的・文化的に形成された性別、いわゆるジェンダー研究、両性の働き方、夫婦の役割の変化などにより育児における母子像を強調する視点は、旗色が悪いように思われます。
ボウルビへの批判の一端ですが、コネチカット大学(University of Connecticut)のローナー(Ronald Rohner)は著書『Handbook for the Study of Parental Acceptance and Rejection』の中で子どもの性格は父親で決まるとさえ主張しています。さらにオックスフォード大学(University of Oxford) の 「Families, Effective Learning, and Literacy research group (FELL) 」の調査結果によると、成長期に父親とよく交流する子供は非行に走らず学業成績が優秀であったり、人間関係が良好であると結論づけています。
イギリスのニューカッスル大学(Newcastle University)の研究チームは、1958年に生まれた男女11,000名を対象に、「育児における父親の役割」を解明するための追跡調査を実施しますが、結果として成長期に父親と多くの時間を過ごした子供は、父親と過ごした時間が少ない子供に比べて、IQが遥かに高くなるということを報告しています。
ボウルビの研究に対する批判はさまざまですが、親子関係を世界中の人々が真剣に考えるきっかけになったのは間違いありません。それほど大きな影響を発達心理学の世界に与えたといえます。