認知心理学の面白さ その十三 「自由からの逃走」とフロム 

私が北海道大学に入学したのは1961年です。丁度、安保闘争が収束し、なんとなく弛緩したような雰囲気がキャンパスにありました。そして先輩から言われたことは「本を読め、」ということでした。早速マルクシズム(Marxism) に傾倒するのもいました。寮生活をすると先輩からの「理論的指導」という洗礼を受けるのです。

私は祖母の家に下宿してましたから、先輩からの「指導」は受けませんでした。ですが、「三太郎の日記」とか「チボー家の人々」、「プロテスタンチズムと資本主義の精神」といった新人学生には登竜門となるような流行の本を買い求めました。「自由からの逃走」(Escape from Freedom) という本もそうです。

この本の著書はエリヒ・フロム(Erich Fromm)というユダヤ系のドイツ人心理学者です。ハイデルベルク大学(Heidelberg University)で社会学や心理学、哲学を学び、カール・ヤスパース(Karl Jaspers)、マックス・ヴェーバー(Max Weber)の弟であるアルフレート・ヴェーバー(Alfred Weber)らの影響を受けます。フロムはナチスが政権を掌握した後、ジュネーヴ(Geneva) に移り、さらにアメリカへ移住します。コロンビア大学(Columbia University)で教えた後、ヴァモント州( Vermont)のベニントン大学(Bennington College)で教鞭をとります。

フロムの代表作「自由からの逃走」ではファシズムの心理学的起源を明らかにし、ナチズムに傾倒していったドイツを考察し、国民はどうして国家社会主義にのめり込んでいったかを分析します。このような状況を生み出すこととなった根源として考えられたのが「自由」です。「自由からの逃避のメカニズム」として破壊性と機械的な画一性も示唆します。どういうことかといいますと、思考や感情や意思や欲求は、個人の自発的なもの由来ではなく社会や他人による影響の大きさにあるとします。例えば、人は人道主義的な倫理を信奉していてもそれが達成できない状況では、権威主義的な理想に助けを求めるというのです。そうした傾向は人間の破壊性や同調性に由来するという主張です。