面白い本に出会うのは誠に眼福の思いがします。「居眠り磐音 江戸双紙」もその一冊です。一冊といっても50巻に及ぶ大作の時代小説です。なんといってもこの小説の魅力は、登場人物の対話にあります。励まし、癒し、笑い、喜び、労り、切なさ、同情、風刺、省察、呆れ、叱責、苦悩、怒り、憎悪、、、父と子の絆、夫婦の愛情、師匠と師弟の信頼、ありとあらゆる感情や挙措が描かれます。そこにしみじみとした余韻が残るのです。是非、お読みいただきたい一作です。
時は江戸も幕末に近い頃。田沼意次が権勢を振るっていた時代です。関前藩の下士、坂崎磐音は藩内の権力争いに巻き込まれ、上意によってかけがえのない友を失い、その一人を殺めることになります。許嫁であった奈緖の兄がその友でした。もはや藩にとどまることができず、江戸に出て長屋に住み鰻割きで生計をたてます。
やがて両替商の今津屋吉右衛門やその大番頭の由蔵から、用心棒として厚い信頼を得ます。佐々木玲圓道場の尚武館で修行し、その人格と剣術の技によって跡継ぎとなります。「居眠り剣法」として名を轟かすようになります。そして今小町と呼ばれた美貌のおこんと結ばれます。
意次らの陰謀により次の将軍となるはずの徳川家基が毒殺されます。家基の護衛の任にあたっていた玲圓はその責任をとって自裁し、玲圓を輔弼していた磐音も深い自責の念に駆られます。道場の尚武館は取り潰されます。
磐音とおこんは江戸を逃れ意次らの刺客に追われながらも、高野山の懐の中で忍びの一派である雑賀衆に助けられなんとか生き延びます。その間に息子の空也が生まれます。塗炭の苦しみを経て江戸に戻り、尚武館を再興するのです。
ざっとですがストーリーを要約してみました。磐音の波瀾万丈ともいえる生き様が描かれているのですが、彼の周りの人物との対話がこの小説の白眉ともいえる部分なのです。皆貧乏でその日その日暮らしをしています。ですがそこに暖かい人情による助け合いがあります。毎日が不安だらけなのですが、懸命に生きようとする知恵と気概があります。
幕藩体制の綱紀が緩み、士農工商というたがは外れてきて、幕府の政治を風刺したり揶揄する余裕が庶民にも生まれます。読売という瓦版、タブロイド紙によって情報が庶民に伝わり、政治にも影響を及ぼすことになります。為政者はメディアを敵に回すことができなくなります。国内だけでなく、密かに海外との交易も盛んになり、情報が大量に出回ります。新しい時代の夜明けが近づきます。
剣の道に生きる磐音もこうした時代の変わり目を感じていきます。ですが、頑なに伝統の剣術を通して道を究めようと、息子の空也や弟子達にその奥義の深さを教えていこうとするのです。
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