自閉症の増加に関してです。端的にいえば、診断のインフレ現象には精神医学界と製薬業界との「癒着」に似たところがあります。この両者は昔から持ちつ持たれつの関係にあります。医者は薬物療法として疾病に効き目のある薬を必要とします。製薬企業は新薬とか特効薬の開発にしのぎを削っています。「新しい診断には新しい薬が必要になる」ということです。今も昔も製薬は巨大な産業です。
診断とは難しい行為だと考えられます。誤診は日常的にあるものです。二つの誤診という過誤があると思われます。偽陽性(false positive)と偽陰性(false negative)です。前者は、疾病でないにもかかわらず疾病だと診断し、何らかの治療をすることです。無実の人を有罪にすることもこれにあたります。後者は、疾病であるにもかかわらず診断を間違え処方しないことです。ガンの発見を見間違え、治療を怠ることです。真犯人を無罪にするのもこれにあたります。
さてどちらの誤りとして重大かということです。通常は、疾病でいえば後者の偽陰性がたちが悪いと思われます。犯罪でいえば前者のほうが重大な問題であるように思われます。「自閉症がふえている」という現象でいうならば、前者のほうにあたります。危ういものには小さ目の網をかけておいたほうがいいだろうという判断です。これは幾分とも納得いくことです。こうして正常を病的とみなすという診断のインフレ現象が起きるのです。
一度診断されると何からの処方が続きます。その例が薬の処方です。新しい診断には新しい薬が必要となってくるのです。製薬会社が強烈なマーケティングを行い、新しい患者向けの薬の導入を医師に促すのです。DSM-4はこうした診断のインフレを防止できなかったという反省が表明されています。そしてDSM-5へと改訂されていきます。
別な理由として自閉症の発生率が増加したのは、自閉症が特別な学校サービスを受けるための要件となったことにも理由があります。診断書を貰いやすいという噂によって、保護者が特定の医者を選ぶという事例もたくさんあります。担任教員を補助する加配の教員を配置するにも、個別の指導に対応するにも診断が基となるのです。
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