ウィスコンシンで会った人々 その115 幽霊噺  「お化け長屋」

肝試しやお化けが話題となる季節は去った。秋のお彼岸も終わり、霊も幽霊も暫く静かな時を過ごしているのではないか。だが幽霊やお化けは人間にとって永遠の話題である。なぜなら、皆等しく幽霊になる可能性があるからだ。祭りなどで「ひょっとこ」や「おかめ」が登場したり、縁日でお面をかぶる姿は、ハロウィーン(Halloween)の仮装とも合い通じるものがある。死んでから自分に似せた面をカメの前に架けておけば、家が富み栄えるという昔話もある。人はあるものに変身したいという潜在的な憧れがあるようだ。

ある長屋に一軒の空き家がある。そこを長屋の連中は、物干しにしたり物置として使っている。家主はこの物置を空き部屋として貸そうとする。長屋に古くから住んでいる通称、古狸の杢兵衛が物置が無くなると大変だと一計を案じる。借り手が訪ねてきたら、家主は遠方に住んでいるので自分が長屋の差配をまかされているといって杢兵衛の家へ来させて、借り手を脅して空き家に借り手がつくのを防ごうという算段だ。

早速、借り手が杢兵衛のところへ来る。杢兵衛は怪談じみた話を始める。3年程前に空き家に住んでいた美人の後家さんのところへ泥棒が入り、あいくちで刺され後家さんは殺された。空き家はすぐに借り手がつくが、皆すぐに出て行ってしまうという。後家さんの幽霊が出るという話を借り手に披露する。

借り手が恐がりなのを見透かした杢兵衛は、身振り手振りを加え怪談話をする。恐がってもうわかったから止めてくれという借り手の顔を、幽霊の冷たい手が撫でるように濡れ雑巾で撫でると借り手は大声を出して飛び出して行ってしまう。大成功だ。借り手の坐っていたところを見るとがま口が忘れてある。成功、成功と拾ったがま口を持って仲間と寿司を食いにいく。

次に来たのが威勢のいい職人風の男。前の男を恐がらせて追い返した杢兵衛、自信たっぷりで怪談話を始めるが、こんどの男は一向に恐がらず、話の間にちょっかいを入れて混ぜっ返す始末だ。困った杢兵衛さん、最後に濡れ雑巾で男の顔をひと撫でしようとすると、男に雑巾をぶん取られ、逆に顔中を叩かれこすられてしまう。男はすぐに引越して来るから掃除をしておけと言い残して帰ってしまう。そこへ長屋の住人が様子を聞きに来る。

杢兵衛 「あいつはだめだ、全然恐がらねえ、家賃なんかいらないって言ってしまったからお前と二人で出そう」
長屋の住人 「冗談じゃねえ、がま口なんか、置いて行かなかったのか?」
杢兵衛(あたりを探して) 「さっきのがま口持って行っちゃった、あの野郎!」

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