ウィスコンシンで会った人々 その105 舞台噺 「音曲長屋」

落語の中には、音曲を取り入れたものも多くある。楽屋連中の踊り、歌・物真似が飛び出す歌舞伎仕立ての構成で、これを舞台落語と命名された。演者には相当な芸が要求されたといわれる。噺家の中でも舞台で披露する人がいる。実に可笑しい。

三味線や歌、踊りといった音曲の好きな旦那がまた新しい長屋を建てた。入居者募集には「芸の心得のある者」という厳しい条件をつけ、その手見せ(オーディション)を開いた。

常盤津、踊り、義太夫、落語、手品、物真似、皿回し、長唄、剣術、川柳・狂歌、所作指南など芸の持ち主がやってきては、自分の素人芸を披露した。長屋の主人は、応募者一人ひとりに「ええですな、是非とも入居を」とほめると、「お前さんはこの長屋に入るのは五十年早いな」などと冷やかしながら入居者を決めていった。

最後の男が都都逸を唄うと、その声に長屋の旦那はすっかり惚れぼれしてしまう。都都逸は、三味線と共に歌われる俗曲。主として男女の恋愛を題材とした。これを音曲師が寄席や座敷などで演じる出し物である。

▽この酒を 止めちゃ嫌だよ 酔わせておくれ まさか素面じゃ 言いにくい
これは、五・七・七・七・五の音数律となっている。

▽あついあついと 言われた仲も 三月せぬ間に あきがくる
こちらは七・七・七・五の形式である。

 長屋の旦那  「大変結構、結構。あなたは店賃はいりません。」
 長屋の旦那  「その代り、毎日、あたしの所へきて都都逸を聞かせてくださいな」
 応募者  「いくらなんでも毎日聞いてたら、飽きやぁしませんか?」
 長屋の旦那  「あたしは家主。空家(飽きやぁ)は禁物です」

chiyuki 2007_2-1