ウィスコンシンで会った人々 その103 手討ち噺 「たけのこ」

春は芽、夏が葉、秋は実、冬は根をいただくのが日本の食文化である。竹冠に旬と書いて「筍」。たけのこである。まさに旬の食材。なんともいえない趣のある漢字である。今春、奈良の友人からいつものように筍が送られてきた。隣近所にお裾分けをし、ご相伴にあずかってもらった。食感といい香りといいたまらない春の食材である。落語にも筍が登場する。

ある武家屋敷である。田中三太夫が殿様にお目通り。三太夫とは家老とか執事という役職である。

三太夫 「実は、お隣の筍にございます」
殿様 「隣の筍ぉ?」
三太夫 「はっ、隣の筍が塀越しにこちらの庭先に顔を出しました」
三太夫 「それを密かに殿に差し上げる所存でございます」
殿様 「たわけっ。何を申すか、その方は。その方なぁ、」
殿様 「武士たる者が、隣のものを黙って食らうとは、何事だ」

殿様は云う。町人なれば誤って事も済むだろうが、武士たる者、事と次第によっては、腹を切らぬければならんと。

殿様  「もそっと、もそっと、前へ出ぇ。かよう盗人同然の者をのぉ、この屋敷において、養うことはまかりならん。もそっと、前へ出ぇ。筍の前にその方の首を落としてつかわす」

三太夫 「ちょちょちょ、ちょ、ちょちょっ、ご勘弁願います。いや、いやいや、旦那様、落ち着いてくださいまし。あたくしが悪うございました」

三太夫 「いやっ、旦那様、しばらく、しばらくっ」
三太夫 「いやっ、まだ、あのぉ、筍は盗った訳ではございませんので」
殿様 「盗っておらんー? では、はよぉ盗ってまいれ。」

三太夫は殿の命令に驚く。殿様は、筍が育ちが早いのですぐ硬くなることを知っている。盗ってはならんというのは表向きの言葉。隣の爺が憎らしいのである。その爺の筍を食らって溜飲を下げようという趣向である。

三太夫はびっくりしていると、殿が許せ、許せ、といいながら爺に断りを入れるように三太夫に申しつける。

三太夫 「はっ、何と申しますか?」

殿様は、けしからん筍は既に当方において手討ちにしたこと。そして遺骸は手厚く腹の内へと葬ったこと。そして筍の形見として皮を持ってきたこと。このとおり可愛いや(皮嫌)、、といいう口上となる。

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