動物が主人公の噺を二席。二匹の犬が主役である。昔は、犬の名前は毛の色や表情などで付けられたものが多かった。例えば、ブチ、アカ、シロ、クロ、ボン太、など。時に小僧の名前をつけたともいう。巻八、コタロウ、豆蔵、茶々丸などである。猫ではないが、犬にも「たま」に「ソラ」というのもある。
江戸は、とある乾物屋の朝。丁稚小僧が表戸を開けようとすると、戸袋の所に箱が置いてあり、中には白と黒とぶちの子犬。大旦那になんとか頼み込んで飼うことになる。特に黒いのを小僧が可愛がり、クロと呼んで兄弟同然にして育てる。
ある時、通りがかりの商人風の男が乾物屋のクロをみる。そして大旦那にこのクロを譲ってくれぬか、と相談する。わけをきくと、大坂は鴻池の主人の一人息子が可愛がっていた黒犬が死んで、息子は悲しみ病気がちだという。それで全国を旅して黒犬を探しているというのである。事情を知った旦那は小僧が懇願するのを振り切ってクロを譲ることにする。クロは鴻池にもらわれていく。
鴻池宅にもらわれたクロには医者が3人付き、広い敷地で豪勢な暮らしを始める。下にも置かず大切にされ、エサがいいせいか、毛並みもつやつやとして、体もずんずん大きくなる。一人息子も元気になる。やがて「鴻池の大将」として近所のボス犬となる。ある時、近辺で見慣れない痩せ細った犬が、街の犬にいじめられ、フラフラと鴻池宅前まで逃げてくる。
シロ 「クーン、ウォーン、ウォーン、」
クロ 「ウー、ウー、ウー、ワン!」
ここからは二匹の犬語による架空の対話である。同時通訳すると次のようになる。
シロ 「あなたは兄さんのクロではありませんか、、」
クロ 「てめえは何者だ!」
シロ 「あなたと乾物屋でブチと一緒にいたシロです。クロ兄さんじゃございませんか、」
クロ 「クロはオレだ!」
シロ 「あっ、兄さん、お懐かしゅうございます」
よく見ると、犬は末の弟のシロ。
クロ 「おお、お前はシロか、妹のブチはどうしている?」
シロ 「姉さんのブチは食べ物がなくなり、クロ兄さん、クロ兄さんと呼びながら痩せこけて死んでしまいました」
クロ 「おおそうか、それは可哀想なことをした。シロ、ここではなんでも好きな者が食べられるぞ。虎屋の羊羹、福砂屋のカステラ、神戸のステーキ、、、最近は俺は太り気味でな、、ガンマ-GTPが高い、、」
シロ 「兄さんは、犬の誇りを忘れたのですか、、」
クロ 「、、、、面目ない、、」
クロ 「、、ここは大坂一の大店、なんでもあるんじゃ、、」
シロ 「これはなんですか?」
クロ 「鯉の天ぷらでな、、美味いぞ、さあさあお食べ!」
シロ 「どこで獲れたんですか?」
クロ 「当たり前よ、鴻池からさ」