ウィスコンシンで会った人々 その73 夫婦の情愛噺

山手線田町と品川の間に新しい駅ができる。その名前がいま話題となっている。「芝浜」が一つの候補。新品川などという洒落にもならない駅名はご免だ。車内放送で「次は芝浜、芝浜、財布を忘れないように」と流れると面白い。JR東日本の社長は粋か無粋かが注目である。

芝は金杉に住む魚屋の勝五郎。良い腕をしているのだが怠け者。年越しも近いというのに、相変わらず仕事を休み、ササを食らって寝ているばかり。女房の方はいても立ってもいられなくなり、真夜中に亭主をたたき起こして、このままじゃ年も越せないから魚河岸へ仕入れに行ってくれとせっつく。

勝五郎はしかたなく、芝の浜に出て時間をつぶすことにする。海岸でぼんやりとたばこをふかし、暗い沖合いを眺めているうち、だんだん夜が明けてくる。波打ち際に手を入れると、ボロボロの財布に触る。指で中をさぐると確かに金貨。二分金で四十二両。

こうなると、商売どころではない。当分は遊んで暮らせると、家にとって返し、あっけにとられる女房の尻をたたいて、酒を買ってこさせ、友達とドンチャン騒ぎ。そのまま酔いつぶれて寝てしまう。

不意に女房が起こすので目を覚ます。
女房 「年を越せないから仕入れに行ってくれ」
勝五郎 「金は四十二両もあるじゃねえか」
女房  「どこにそんな金があるの。おまえさん、夢でも見てたんだよ」
勝五郎  「おかしいな、金を拾ったのは夢、酒を飲んで大騒ぎしたのは本当か、、、」

今度はさすがに勝五郎、自分が情けなくなり、それから酒はきっぱりやめて仕事に精を出す。

それから三年。すっかり改心して商売に励んだ勝五郎。得意先もつき、小さいながら店も構えている。大晦日、片付けも全部済まして夫婦水入らずという時、女房が見てもらいたいものがあると出したのは紛れもない、あの時の四十二両の財布だ。

サゲは是非ご自身で確かめて貰いたい。酒と夢と夫婦の情愛が秀逸である。

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