ウィスコンシンで会った人々  その61 人情噺と「妾馬」

お馴染み八五郎が登場する演目に「妾馬」がある。別題は「八五郎出世」。人情噺にいれてよい内容で、江戸時代の庶民と殿様の生活振りも伺い知れる佳作である。

道楽男の八五郎。妹に器量よしのお鶴がいる。このお鶴は、お殿様に見染められて奥に入る。やがて男の子を産み「お鶴の方」と呼ばれるようになる。八五郎は、殿様に招かれて出掛ける。そのとき、長屋の大家に「言葉の頭に『お』の字をつけ、語尾には『奉る』を付けろ」といわれる。お世取りの意味が解らず鳥の一種か何かだと思い込んでしまう。

殿様の前で、八五郎が自分の名前に『お』の字を付けたり、『奉る』を付けるので、殿様さっぱりわからない。そこで朋友の前で使う言葉づかいにするようにと云われる。「殿様、話がわかる、、」といって八五郎の無礼講が始まる。「八五郎、そちはササを食するか?」そして、酒肴がどっさり出てくる。すっかりいい気持ちになって、ふと見ると殿様の隣に妹のお鶴が着飾って座っている。

八五郎 「お鶴、綺麗だな、赤ん坊も可愛いな、お袋が喜んで言っていたぜ。初孫なのでおしめを洗ってやりたいが身分も違うのでそれもかなわないと」
八五郎 「早く赤ん坊を抱けるような時代がくればええな、、、とお袋がいっていたぜ、」
八五郎 「お鶴、、、子供ができたからと自惚れてはいけないぞ、」

この下りが「妾馬」の最高潮の場面である。八五郎は「話が湿っぽくなったな、、」といってざっかけない自分の話題にひき戻す。「古典落語は単に笑わすのじゃなくて泣かすことも大事なのだ。」と誰かが言っている。初孫を見たいお袋の姿を演者はしみじみと語る。まるで新しい芸の境地を切り開くような落語である。

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