お馴染み八五郎が、町内のご隠居のところにやってきて、質屋の婿養子が死んだと伝える。気の毒なことに、これで婿養子が亡くなったのは三度目。
隠居は「婿養子が短命なのは、妻が美人なのが元だ」と言う。「タンメイ?」「早死にすることを短命という」「じゃあ逆に、長生きのことは何と?」「長命だ。」夫が短命なのは妻が美人だから、という隠居の講釈を理解できない八五郎に、隠居は次のような話をした。
「食事時だ。お膳をはさんで差し向かい。おかみさんが、ご飯茶碗を旦那に渡そうとして、手と手が触れる。おかみさんの手は白魚を5本並べたように透き通るようだ。そっと前を見る。……身震いするような、いい女だ。……短命だよ。」
八五郎は何のことだかわからない。
「そのうち冬が来るだろう。二人でこたつに入る、何かの拍子で手が触れる。白魚を5本並べたような、透き通るようなおかみさんの手だ。そっと前を見る。、、、ふるいつきたくなるような、いい女だ。、、、短命だよ。」
八五郎はこれでも何だかわからない。
ご隠居は次に、以下のような川柳で説明しようとする。
”何よりも傍が毒だと医者が言い”
ようやく八五郎は、隠居の意趣が分かる。隠居は婿養子たちは房事過多で死んだのだと言いたかったのだろうと。隠居宅から自宅に戻った八五郎は、戻るなり妻に怒鳴られる。「なぜ短命な婿養子たちと、俺はこうも違うのだろう」と幻滅する。八五郎は昼飯を食べる際、ふと思いついて妻に話しかけた。
「給仕をしろ。茶碗をそこに放り出さず、ちゃんと俺に手渡すんだ」
妻は茶碗を邪険に差し出す。夫婦の指と指が触れ、「そっと前を見る。……」妻の姿を見つめた八五郎は深くため息して、「ああ、俺は長命だ。」