笑いの中では、知ったかぶりをする者が出てきて、それをおちょくる者が出てくる。当人は、笑われていることに気がつかないところに可笑し味がある。その代表が「酢豆腐」という演目である。数年前に朝ドラで落語ブームに火をつけたのが上方落語の「ちりとてちん」である。江戸落語では「酢豆腐」となっている。
近所の男が、旦那の誕生日だというので訪ねてくる。旦那は白菊、鯛の刺身、茶碗蒸し、白飯でもてなす。出された食事に嬉しがり、「初めて食べる」、「初物を食べると寿命が75日延びる」とべんちゃらを言い、旦那を喜ばせる。そのうち、裏に住む竹という男の話になる。この竹、何でも知ったかぶりをするため、誕生日の趣向として、旦那達は竹に一泡吹かせる相談を始める。水屋で腐った豆腐が見つかり、これを元祖 長崎名産「ちりとてちん」として竹に食わせるという相談がまとまる。そうとは知らずに訪れた竹が、案の定「ちりとてちん」をよく知っていると言う。台湾旅行のときは毎日食べた大好物だというのである。そこで「ちりとてちん」食わせると、一口で悶え苦しむ。旦那が「どんな味や?」と聞くと、竹曰く「ちょうど豆腐の腐ったような味や・・・」。半可通のことを「酢豆腐」と呼ぶようになったのは、この噺からだといわれる。
既述した演目であるが「千早振る」に出てくる「先生」の異名を持つ隠居も知ったかぶりの代表だろう。百人一首の一句「ちはやふる神代もきかず竜田川からくれなゐに水くくるとは」の意味を知りたいといってきたのが八五郎。隠居は戸惑うのだが、頓智を働かせて八五郎に説明する。隠居は「ちはやぶる」が枕詞であることを知らない御仁なのである。それを、「千早」という女性が無男の竜田川という相撲取りを袖にする、というようにでっち上げる。それを真に受ける八五郎の反応になんともいえない滑稽さがある。