このところ囲碁界では、中国や韓国の棋手の強さが報じられている。それだけに囲碁の盟主ともいえる日本の棋手に対する期待が大きい。中国や韓国の選手の強さは競り合いの強さとか、石の強さということにあるらしい。日本の棋手は石の形や効率を重視しがちで、サッカーでいう球際の強さではないが、厳しい石の競り合いはあまり得意でないというのだ。筆者には通暁していない高みの話題だが、、
囲碁の戦法には実利と厚みがある。自分の地となり、相手の生きがほぼ見込めない領域のことを確定地と呼ぶ。この確定地優先の戦法を実利重視という。一般に、相手の石が生きることが困難なところ、つまり自分の地になりやすいところと、模様の広さという大きな地になる可能性の大きさとの間にはトレードオフ(trade-off)の関係がある。
しかし、確定地ばかり作っていると周りが相手の石で囲まれ大模様ができることになる。勢力が強くなると、これをたやすく破ることは難しい。こうした戦法は厚み重視という。厚みの碁では相手は大抵の場合、厚みの中に打ち込んでくる。いわば敵の陣地に落下傘部隊を投下するようなものである。しかし、この場合は厚みという勢力によって相当逃げ回り、追い詰められることを覚悟しなければならない。
厚みとは大まかに囲っている地域であり、模様ともいわれる。囲碁の進行と共に、攻めと守りという景色が大きく入れ替わる。相手が囲おうとしているところに石を突入させる打ち込みだが、生きてしまえば、そこは自分の地となり、相手の陣地は小さくなる。戦いの中で相手の地や石と自分の地や石を譲り合う、「フリカワリ」という戦法もある。こちらが地を取れば、相手にも地をあげる、というトレードオフである。この時、どちらが得をするかで「フリカワリ」をするかどうかを判断する。
目前の利得を重視するのが実利重視、将来の利得を考えるのが厚み重視。経営に喩えれば、短期と長期の見通しやバランスに似たところがある。この実利と厚みの絶妙なバランスが囲碁の戦略できわめて重要であり、また難しさの奥義でもある。