フランス映画はアメリカの作品と異なった特徴や雰囲気があります。人間の存在や二面性をテーマにすることが多いのが特徴の一つです。人間を抑圧しようとする状況の中で、自分という存在の愚かさを受け入れる姿を描くのです。これを実存主義の表れだという解説者もいます。ともあれ映画を「芸術」として考えていることが伺えます。監督や脚本家が一致してこの人間の生き様を描くのです。決して派手さはありませんが,深い思索を感じるものです。自分という存在を女性の視点からとらえた【昼顔】(Belle de Jour)の紹介です。フランスを代表する女優カトリーヌ・ドヌーブ(Catherine Deneuve)が一人の女を演じるのが見所です。
セブリーヌ(Séverine Serizy)は若く美人の妻です。内科医である夫のピエール(Dr. Pierre Serizy)とは夫婦として不満足な暮らしています。セブリーヌは、サドマゾヒズム(sadomasochism-加虐被虐性愛)や威圧性などの性格の持ち主ですが、夫は妻の不感症に耐えています。
スキーリゾートへ行ったとき、友達のヘンリー(Henri Husson)とルネ(Renée)に出会います。セブリーヌにはヘンリーの仕草や自分を見る目つきが気にくわないのです。パリに戻るとセブリーヌはルネとその友達のヘンリエッテに会います。ヘンリエッテは売春宿を経営しています。セブリーヌはヘンリーから薔薇の花束を受け取りますが、ヘンリーの動作にぐらつきます。テニスコートでヘンリーに会い、そこでヘンリエッテと売春宿でのことを語り合います。ヘンリーはパリにある高級宿のことを語り、セブリーヌを誘うのです。彼女はそのときは拒否します。
子ども時代の記憶が甦り、ある男が自分の体を触ろうとしたことを思い出します。セブリーヌは、マダム・アナイ(Madame Anaïs)が経営する高級売春宿を訪ねます。その午後、セブリーヌはそこで最初の男の相手をするのです。始めはためらうのですが、マダム・アナイの強い誘いによってベルドジュア(Belle de Jour–昼顔) という名で、見知らぬ男を客としてとるようになります。その一週間後になると、セブリーヌは午後2時から5時まで客をとり、夕方、なにも疑うそぶりのしない夫のもとに帰ります。ある日、ヘンリーが自宅に訪ねてきますが、セブリーヌは会おうとしません。しかし、夫の前でヘンリーと交わる幻想に襲われます。それと同時にセブリーヌは夫ピエールとの夫婦生活が改善するのを感じていきます。
セブリーヌは、マルセル(Marcel)という若い青年と懇ろになります。彼は、セブリーヌがスリルで興奮するような幻想を演出します。マルセルは嫉妬深くなりセブリーヌにもっと要求するようになると、彼女はマダム・アナイの同意を得て高級宿を去ることにします。夫は、セブリーヌが高級宿に行き来していたことを知っていたのです。マルセルの仲間が、セブリーヌの家を訪ね、彼女の秘密の行為を夫にばらすと脅してきます。出て行って欲しいと男に懇願するセブリーヌに対して、その男は「お前の夫は邪魔者だ」と罵るのです。
マルセルはピエールの帰りを待ちます。そして銃で彼に3発を放ちます。マルセルは逃げますが警官によって撃ち殺されます。ピエールは昏睡状態を脱して助かります。警官は、事件の顛末を明らかにできません。セブリーヌは、半身不随となり車椅子に乗る夫ピエールの世話をするようになります。ヘンリーが訪ねてくると、ピエールにセブリーヌの秘密の行為を告げます。 彼女はその言葉を黙って聞いています。ヘンリーが去ると、セブリーヌは夫の前でむせび泣きをします。ピエールは車椅子から身を乗り出して酒をつぎながら、次の休暇はどこでしようかという会話をセブリーヌとするのです。