原題【Adam】といいます。台詞はフランス語です。モロッコ(Morocco) はカサブランカ(Casablanca)の旧市街メディナ(Medina)に、幼い娘ワルダ(Walda) を育てながらアブラ(Abla)という女性がいます。アブラは夫を事故で亡くし、小さなパン屋を営みながら、娘と二人で働いています。
あるとき、店のドアを叩く音がしてアブラが出ると、お腹の大きい若い妊婦が玄関先に立っています。彼女はサミア(Samia)と名乗ります。未婚の妊婦と関わり合えば周囲から後ろ指差されるイスラム教のモロッコです。アブラはサミアを追い返します。しかしどこか見捨て切れない気持がありました。やがて、怪しみながらもアブラはサミアを迎えいります。
アブラにとってサミアの存在は非常に危険でもありました。モロッコでは、未婚の妊婦は最大の禁忌だからです。それでも、サミアは孤独だったアブラとワルダ親子の生活に明るい変化をもたらします。パン作りが得意なサミアは、美味しいパンを作り街の人々から大評判になります。そしてパン商売は波に乗ります。互いに孤独を抱えていた二人は徐々に打ち解け、お互いの心を開きあっていくのです。
サミアは子が産まれれば即座に養子へ出し、なにも無かったふりをして実家へ戻るとアブラ話していました。モロッコでは婚外交渉と中絶が違法です。未婚の妊婦はすなわち「逮捕されていない犯罪者」であり、病院で出産しようとすれば警察に逮捕される危険があります。故郷に戻れば疎まれます。 産まれた子どもは「罪のある子」として周囲から虐げられるというのです。
町中が祭りの興奮に溢れる時、サミアに陣痛が始まります。サミアは、生まれ来る子の幸せを願い養子に出す覚悟をしていました。彼女は無事出産し、母親になっていきます。彼女と赤ん坊の間には絆が生まれています。そしていよいよ、赤ん坊を養子に出す日がやってきました。彼女は取り乱すことなく、じっと感情を抑え尊厳に満ちた表情なのです。