懐かしのキネマ その60 【市民ケーン】

映画『第三の男』(The Third Man) などでの個性的な演技で名優として知られ、映画監督としても数々の傑作を残したのがオーソン・ウェルズ(Orson Welles)です。ウィスコンシン州ケノーシャ(Kenosha)の出身です。子ども時代の彼は、詩、漫画、演劇に才能を発揮する天才児と呼ばれ、同時に自由奔放な性格で、周りとの人間関係に問題があったようです。今様でいえば発達障害だったのかもしれません。

Citizen Kane

ウェルズは、25歳で始めてメガホンをとり、映画『市民ケーン』(Citizen Kane)を製作します。この作品で数多くの斬新な撮影技法を駆使します。例えば、超クローズアップ、CGの無い時代にネオン看板を上下に切っておいてカメラが通り抜ける瞬間持ち上げ手法、画面全てに焦点を合わせる撮影技法パンフォーカス、低い視点から仰角気味に撮影するローアングル、ヒットラー(Adolf Hitler)など歴史上の人物とフィクションの人物を一緒の映像に取り込む手法などです。こうした手法は、現在でも映画製作の分野できわめて高く評価されているようです。

新聞王

「市民ケーン」(Citizen Kane)は、カリフォルニアの新聞王ウィリアム・ランドルフ・ハースト(William Randolf Hearst)をモデルにした作品です。メディア界に君臨したハーストは、合衆国下院議員、ニューヨーク市長となり、さらにニューヨーク州知事の選挙にまで出馬しますが落選します。それでもライバルを蹴落とし、メディア帝国を築いていくのです。ウェルズはこの新聞王のプライベートな側面を暴き、ハースト自身を激怒させたともいわれます。「市民ケーン」は、スキャンダラスな内容を描く映画の元祖ともいわれます。こうした「実在モデル映画」の手法は、チャップリン(Charles Chaplin) の『独裁者』にヒットラーを登場させたことに似ています。ウェルズは権力者の持つ個性に強い関心を抱き、映画製作にそれを反映していきます。