イギリスやフランスで作られた歴史ドラマには、なかなか興味深いものがあります。2017年に製作されたコメディ【スターリンの葬送狂騒曲】(The Death of Stalin)もそうです。題名が凄いですね。独裁者スターリン(Iosif Stalin)の死によって引き起こされるソビエト連邦政府内の権力闘争をコミカルに、しかも辛辣に描いた作品です。ロシアで上映禁止となるほど話題を集めたブラックコメディ(Black Comedy)を紹介します。
舞台は1953年の旧ソビエト連邦です。粛清という恐怖で国を支配していた絶対的独裁者スターリンが寝室で休んでいたとき、発作を起こし昏睡状態に陥いります。卒倒したスターリンの周りに、ソビエト連邦共産党の幹部たちが次々に駆けつけてきます。粛清によって有能な医師がいなくなっていた中、経験不足の若手や引退したやぶ医者までかき集めて何とか編成した医師団と看護師が、スターリンを診察します。そして「スターリンは脳出血により右半身麻痺の状態、回復の見込みはない」という医師たちの診断に、次期最高権力者の座を狙う側近たちは驚喜します。
表向きは厳粛な国葬の準備を進める一方、その裏では側近たちが後釜を狙い熾烈な争いを繰り広げていきます。スターリンの腹心だったマレンコフ(Georgy Malenkov)、中央委員会第一書記のフルシチョフ (Nikita Khrushchev)、大粛清の主要な執行者といわれたベリア(Pavlovich Berija) が3大トップとなります。そこにソ連軍最高司令官で大戦の英雄であるジューコフ(Georgy Zhukov) までが権力争いに参戦してきます。
葬儀の当日も、スターリンの遺骸の周りに立つ幹部たちは他のメンバーに対する悪口を言い合います。ベリヤが弔問客に教会の関係者を含めたことについて、フルシチョフらは「スターリン主義に反する」とさや当てする始末です。最高司令官でジューコフと組んだフルシチョフは、マレンコフを除く他の共産党幹部の同意も取り付け、ベリヤの失脚に向けた準備を進めます。葬儀後に開かれた幹部の会議でフルシチョフがベリヤの解任を提議します。ジューコフら軍人によってベリヤは連行され処刑されます。
コント的な笑いが随所にあります。スターリンが倒れ失禁します。そこに医者を呼ぼうにも名医はすでに処刑されヤブ医者しか集められないという話、閣僚会議で互いの出方をうかがって手を挙げたり下げたりで、恐怖政治が生み出した不条理な状況を笑いとペーソスで演出する映画です。