アメリカにおける人種差別問題は奥深いものがあります。今も続く社会問題です。3月にはアジア系人種を狙った殺人事件もありました。人種差別を正面から取り上げた映画も沢山あります。前回は【夜の大捜査線】を取り上げました。今回は【招かざる客】(Who’s Coming to Dinner)という1967年の作品です。この作品は、白人と黒人の結婚観を肯定的に扱った作品の一つです。1967年といえばベトナム反戦運動が高まり、公民権運動が最高潮に達した時期です。
サンフランシスコ空港(San Francisco)に降りたった30代後半の黒人男性と20歳位の白人女性のカップルが人目を引きます。通りすがりに眉をしかめる者さえ見受けられます。男性の名は、ジョン・プレンティス(Dr. John Prentice)といい、聡明で優秀な医師です。女性の名はジョアンナ(Joanna)で大新聞編集主幹のマット・ドレイトン(Matt Drayton)の娘です。ジョアンナはジョンを連れて両親の邸宅にやってきます。2人は両親に結婚の意思があることを告げます。ドレイトンは、人種差別反対のキャンペーンなどをおこなってきた筋金入りのリベラル派です。妻のクリスティーナ(Christina)も進歩的な考えの持ち主なのですが、娘の結婚話に驚きその心中は複雑です。
そんな中、ジョンの両親も、息子のフィアンセにいち早く会いたいと、サンフランシスコへとやって来ます。しかし息子の相手が、白人の若い女性だと思ってもいなかったため大いに困惑するのです。ジャーナリストのマットの親友で、やはり進歩的な考え方を持つ神父が、「リベラルの化けの皮が剥がれたな」などと、マットをからかいます。マットは、理想を掲げて長年戦ってきたジャーナリストです。己の内部にもある差別心に真摯に対峙せざるを得なくなるのです。
「招かざる客」の監督は社会派といわれるスタンリー・クレイマー(Stanley Kramer)、主演はスペンサー・トレーシー(Spencer Tracy)、シドニー・ポワチエ(Sidney Poitier)、キャサリン・ヘップバーン(Katharine Hepburn)です。クレイマーは「渚にて」(On the Beach)、「ニュールンベルグ裁判」(Judgment at Nuremberg) 、「手錠のままの脱獄」(The Defiant Ones) を手掛けています。