もう一つのカンタータ(Cantata)をご紹介します。カンタータとは、イタリア語「〜を歌う(cantare)」に由来し、器楽伴奏がついた単声または多声の声楽作品を指します。今回は、カンタータ第147番です。「心と口と行いと生きざまもて(Herz und Mund und Tat und Leben)」と訳されています。140番と並んで人々に親しまれる教会カンタータです。この曲を広く知らしめているのが第6曲の「主よ、人の望みの喜びよ」の名で親しまれているコラール(Choral)で、ドイツ語では”Jesus bleibet meine Freude”という題名となっています。
カンタータ第147番は、新約聖書ルカによる福音書(Gospel of Luke) 1章46〜55節にに依拠しています。礼拝での聖書日課は「マリアのエリザベート訪問の祝日」となっていて、マリアが神を賛美した詩「マニフィカト(Magnificat)」が朗読されます。マニフィカトとは、聖歌の一つである「わたしの魂は主を崇め、わたしの霊は救い主なる神を讃える」という詩のことです。全部で10曲から構成されるカンタータ第147番の一部を紹介することにしましょう。
冒頭の合唱は、”Herz und Mund und Tat und Leben”というトランペットが吹かれる快活な曲で気持ちの良い合唱フーガ(Fuga)です。フーガとは対立法という手法を中心とする楽曲のことです。同じ旋律(主唱)が複数の声部によって順々に現れます。この時、5度下げたり、4度上げて歌います。これを応唱ともいいます。少し遅れて応唱と共に別の旋律が演奏されます。これを対唱と呼びます。次のレシタティーヴォも、オーボエなど弦楽合奏を伴うしみじみした響きで演奏されます。
第3曲のアリアは、オーボエ・ダモーレ(oboe d’amore)というオーボエとイングリッシュホルンに似た楽器の伴奏がつきます。少々暗い響きですが雰囲気が醸し出されます。第4曲はバスのレシタティーヴォが続きます。第5曲のアリアでは、独奏ヴァイオリンの美しさが際立ちます。ソプラノの響きも美しい。
そして第6曲がお待たせ「主よ、人の望みの喜びよ」のコラール。英語では「Jesus, Joy of Man’s Desiring」。主旋律と伴奏旋律が互いに入れ替わり、あたかも追いかけごっこをしているようです。どちらも主旋律のように響きます。いつ何度聞いても慰められる名高い曲です。