Last Updated on 2025年2月11日 by 成田滋
すべての人に確実に老化とか成熟がやってくる。地から生まれた者が地に還る準備段階である。老化とか成熟という現象には、人間の発達や成長についていろいろな示唆を与えてくれる。
「老化と成熟は違うようでいて紙一重である」、とどこかで書いたことがある。それは、身体の衰えが理性とか心の成長である成熟に対して負の影響を与えるという事実である。老化という現象は次のような目に見える現象として観察される。
・自分の主張を曲げない。
・人に同情や同感を求めがちになる。
・自分の非を認めようとしなくなる
・人に非難の矛先を向ける。
・他人のせいにする。
・自分を正当化する。
・自分で責任を負おうとしなくなる。
・思い込みが激しくなる。
・異なる考え方ができなくなる。
・人の前であてこすりをする。
・他人の感情が理解できなくなる。
・自分の欠点や足りなさを自分で笑うことができない。
・誤った信念に固執しがちになる。
・怒りっぽくなる。
・ユーモアやジョークが理解できない。
・趣味に興味を示さなくなる。
・所有欲が強くなる。
・口臭や体臭、身なりに無頓着になる。
・身辺の整理が雑になる。
老化の進行による最も悲しい現象の一つは、ものごとを順を追って考えることが困難になりがちになることだ。通常、我々は具体的な事物や状況が目の前になくても、内的イメージを用いて自由に論理的な思考を行うことができる。リンゴを10個一列に並べても、縦に並べても、あるいは固めても10個あると理解できる。こうした発達は5歳くらいで確立しする。これは事物の実際の状態と特徴を保持する能力、つまり保存の概念ができ上がるからである。
スイスの発達心理学者であるJ. ピアジェ(Jean Piaget)は、「自分以外の他者の視点よって多面的に対象・問題について思考することが可能になる」といっている。人間の思考の過程と知的な発達には二つの特徴があるともいう。それを「同化と適応(assimilation and accommodation)」と呼ぶ。「同化」とは、新しい状況に出逢うときそれまでの経験則にそって行動することである。他方、「適応」とは、新しい事実に出くわすときに自分の経験則を変えたり新たな経験則をつくることだ、そのようにピアジェは主張する。人の最も成熟した姿は「適応」ということにある。老化とは、自分の経験則によって物事をとらえる傾向といえる。
成熟ということを振り返るとき、参考になるのに心の理論(Theory of Mind)がある。人の発達は、心の動きを理解する能力を備えることが大事だ、という考えにたつ。他人の立場に依って考えたり行動する、他人の意図や指向や予想などの心の動きを理解していくことが成長だ、という説である。ウィマー(H.Wimmer)とパーナー( J.Perner)は、直接外側からは見えない他人の心理を理解しているかどうかを示す手段として「誤信念」の課題を使う。3歳から5歳になると、人の考えが現実と異なる場合があること、つまり誤信念を理解し、それに基づいて人が行動することを推測できるようになることを示した。この推測が困難になることが、ピアジェのいう同化しかできなくなる現象、すなわち老化であると考えられる。いわば第2の小児期(Second childhood)に戻るようなものである。成熟の定義は、一概にいえないが老化の対極にある生き方としておこう。(2014年1月17日)
老化と成熟の違いを意識化できる存在であり続けることができるかが私の課題です。成熟は”Maturation”といいます。葡萄酒などが熟成した状態、預金に満期がきた状態という意味もあります。その他、高齢化を指す洗練されたメタファー(暗喩)です。
「老化」という言葉は暗く、ネガティブな印象を与えます。「第二の子ども時代」ともいわれ、高齢者を揶揄するような意味もくみとれます。ですが、齢を重ねることは「成熟」ということです。精神的な生き方を求める強い「レジリアンス」を意味します。心理的な復元力とか抵抗する力がレジリアンスです。