Last Updated on 2025年2月7日 by 成田滋
長男と10年ぶりに対面で会話したときの一つのエピソードです。それは資産の価値とか耐用年数といった時間に関わる話題です。決して難しい内容ではなく、日常どこにも転がる話題です。終活の一環として、私は長男に自分のわずかの財産目録のようなものを渡しました。その中に、住んでいるマンションの価値について触れることになりました。
家は大切な財産であり資産であります。我が国では、コンクリート造のマンションの耐用年数は、法律で47年と定められています。耐用年数は、税法上固定資産として減価償却ができる年数です。管理状態が良好で、大規模修繕工事などを実施しているとしても120年が寿命とされています。長男には、定期点検や大規模修繕によっても、日本ではマンション価値は下落していくものなのだ、と説明しました。長男は首をかしげるのです。
長男の家は、マサチューセッツ州はボストンの郊外、約70キロくらいの田舎にある築後70年以上の木造2階建てです。建物は、植民地時代から受け継がれている建築様式でコロニアルスタイルと呼ばれています。板を横に貼った壁が特徴で 建物正面にポーチがつき、大きな窓やベランダがあります。奥行きが深く開放感のある室内も特徴です。手入れを怠らなければ最低でも100年は問題ないと考えられます。コロニアルスタイルの建物は、今も長崎や神戸などの旧外国人居留地あたりにも見られます。すべて明治時代の作品です。
アメリカの住宅事情です。建物は物件価格に占める土地価格の割合が比較的低いので、建物価格の割合が高くなる傾向があります。さらに立地が良好なエリアや周辺物件の価値が高い場合は、物件価値が保たれるのです。そのためには、自宅の資産価値を高める努力、つまりDIY(Do It Yourself) によって手入れするのが一般的です。
アメリカには、SEARS、HOME DEPOTといった巨大なホームセンターが各地にあり、DIYに必要なありとあらゆる建材や道具が揃っています。木材や壁材などはツーバイフォー(two by four)で統一されています。長男もDIYを毎年やっている一人で、車庫にはDIY用の電気ノコギリなどの工具がずらりと並んでいます。
コロニアルスタイルの建物は、耐久性の高い建材が使われ、ボストンなど東海岸はほとんど地震が発生しないといったことから、住宅は大切に使えば100年はもつと考えられています。80年~100年前の木造住宅が現役で使われているのです。奈良県にある法隆寺が、建てられてから1400年以上の木造建築であることを考えれば、100年もつことはなんら不思議ではありません。ついでですが、木造建築の粋である薬師寺や唐招提寺なども大修理で甦りました。
マサチューセッツ州では、建物に使われる建材にはシロアリ対策をすることが規定されています。ですから、リフォームで出た古材は勝手に処分したり焼却はできません。長男は、これまで台所やトイレのリフォームをやっています。一人の親しい大工を雇い、彼の指示によって材木などをホームセンターで調達します。ベッドルームのリフォームは断熱材で壁や天井を補強し、それが終わると隣の部屋をリフォーム、という具合に進めていき、その間にドアや枠の取り替えなどを数年かけて家全体を修理するというやり方をとっています。
今、我が国では古民家の利用に注目が集まっています。特に外国人が古民家を買い取りリフォームする話題が報じられています。彼らは古い木造住宅のシンプルで開放感のある設計などに関心があるからでしょう。このように木造家屋の価値が見直されていることに注目したいものです。古くなると価値が上がるものに昔の紙幣や硬貨があります。例えば、1946年の二宮尊徳像が印刷された壱円券とか、もっと古いものでは1885年の大黒天像の旧壱円券などです。発行はとっくの昔に停止されていますが、今も通用するということが日銀のHPで書かれています。古いものに価値をつけるとか見つけるのは、世界共通の文化の側面といえるでしょう。
最近、自分の住むマンションは、適正に管理運営されているという公的な管理計画認定証を受け取りました。理事長として区分所有者との対話や協議、修繕活動の実績などが評価されたためです。マンション管理士からは修繕のための資金計画も妥当であると審査されました。この認定により資産価値の向上や維持が期待されると考えます。
時が経てばたつほど価値が上がるとは、価値を上げる普段の努力を怠ってはならないということです。これは目に見える資産だけではなく、人間の思考や精神的な態度にもあてはまります。思考という努力を停止してはならないのです。