ジクムント・フロイド(Sigmunt Freud)の続きです。フロイドが生まれたオーストリア・ハンガリー帝国 (Austro-Hungarian Empire)は、多民族国家でありました。そのために民族の自治と独立の動きが激化していました。地位を保持しようとするドイツ人に対して、工業地帯に住むボヘミア人(Bohemia)、今のチェコ人(Czech)、さらに経営者や金融業者、医師、弁護士やジャーナリストなどの専門職についていた多いユダヤ人もまた発言力を増していった頃です。
フロイドは、人間の心理には三つの分野があると仮定します。イド(Id)、エゴ(Ego)、超自我(Super Ego)です。彼は1920年の論文「Beyond the Pleasure Principle」でこのモデルの原形を発表します。やがてこのモデルは1923年の「The Ego and the Id」という著作で磨きをかけます。意識や無意識、前意識といったスキーマ(schema)を発展させた理論です。スキーマとは関連性や属性などを図式化した概念です。
フロイドによれば、イドとは完全に無意識の状態で、衝動的であり幼児的な心の状態と考えます。快楽の原理によって働き、即時的な快や褒美を求める働きともいえます。イドの概念はグロデック(George Groddeck)という精神科医からの引用であるとフロイドは述べています。超自我は心的状態における道徳観念を指し、いかなる状況でも常に正義を求めるものと規定します。
エゴは、人間の衝動性と道徳性の狭間における大半の人の行動を促す要因であるといわれます。状況が重荷になったり、脅かすことになると人は防衛機能が作用し、拒否、失望、弁解、逃避といった行動をとります。このようなスキーマは通常「氷上モデル」(Iceberg Model)と呼ばれ、意識や無意識との関連で、イド、エゴ、超自我が生起する状態と呼ばれます。
フロイドはイドとエゴの関係を次のような喩えで説明します。騎馬(horse)と軽馬車(chariot) です。騎馬は行動の源泉、(イド)であり、軽馬車(エゴ)は方向を定めるものだというのです。精神分析学では、「自己-Self」ではなく「自我ーEgo」という概念を使います。この違いは定かではありませんが、自己とは自我の働きが加わる望ましい人間像といえるかもしれません。